インディーズバトルマガジン QBOOKS

第13回1000字小説バトル
Entry12

肉じゃが

作者 : ナナキマキ
Website : http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/5086/top.html
文字数 : 700
一人暮らしに何が必要か?と聞かれたら、僕は迷わず片手鍋と答え
るだろう。
肉じゃがを作るためのものだ。
たとえ一人で暮らしても、美味い肉じゃがを食わなければ意味がな
いからだ。
母が作るよりも上手く肉じゃがを作らなければならないのだ。
そうしなければ、いつ電話がかかってくるか分からない。
電話を恐れながらする一人暮らしなど、そんなのはホンモノではな
いのだ。
僕はここ何年も、非の打ち所の無い母の肉じゃがを食いながら、絶
望に打ちひしがれていた。僕にこんなカンペキなものは作れない。
この味、このにおい、この温かさ、とても僕には真似できない。
しかし、僕がこの家を出て行くためには、この味を超えなくてはい
けないのだ。
過去あるものを全て網羅せずに、どうして先に進めるというのだろ
う。
僕はこの信念を曲げることはない。
絶対に曲げはしないのだ。
だから、僕がこの家から出て行くにはもう少し時間がかかるだろう。
まだまだ母の味には追いつけない。
毎日夕飯に肉じゃがが出る度、僕はそれを眺め、ゆっくりと口に運
び、吟味し、そして研究する。母は笑って見ている。
僕がどんな思いでそれを食しているかも知らないで。
超えられない、超えられない。
そんなジレンマと重さ。
しかしその裏に、安心している自分を、僕は知っているのだ。
それを打ち消すように、僕は新じゃがを買い求め、キッチンにこも
り、何度も試行錯誤を繰り返し、肉じゃがを作り続ける。
最近ではもう、朝から晩まで作っている。
そんな僕を見て、父は、
「料理人にでもなるのか?」
と月並みな質問をしてきた。
僕はただ、
「分からない。」
と答えた。
まさか、一人暮らしをするから、だなんて言えない。
そんなことは言えない。
母を超える肉じゃがを作れてからではないととても、そんなことは
言えない。
僕が大人になるまで。






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