第13回1000字小説バトル
Entry17
澄んだ冬の夜空のもと、吐く息は白くかすんだ。彼女を送る帰り 道、住宅街は静まりかえり、僕の憂鬱をはらす術はない。 「それでね、その部屋のドアを開けたら誰がいたと思う? すごくびっくりしたんだから!」 彼女のこの話を聞くのは何回目になるだろう。僕は曖昧にうなず きながら、仕方がないことなんだ、と思うようにしていた。彼女に はもう時間という概念すら関係のないことなんだから 一台の車が僕たちをヘッドライトで染めながら通り過ぎていった。 彼女をかばうように歩道側にして並ぶ癖は変わらない。意味なんて もうないじゃないか、そう考えながら僕は歩く。彼女は喋り続けて いる。僕は彼女と手をつなぎたかった。でもできなかった。覆い被 さるような現実に触れてしまうことが怖かった。 しばらく歩くと道はYの字型に分かれている。右に折れる道路は 見通しのいい緩やかなカーブを描いていた。本当に緩やかな何の変 哲もない道だ、そのはずだった…… 僕たちはそこで立ち止まった。アスファルトの上がきらきらと光 っている。幾千の細かく砕け散ったガラスのかけら。僕は早く雨が 降ればいいと思った。すべて流してしまいたかった 「きれいだね、星空みたい」 彼女が呟いた。彼女の目にそう映るのなら、僕にはもう何も言え ない。そう思うことにした。彼女に微笑んで頷く 「いつまでこうして会えるの?」 僕は彼女の目を見ながら聞いた。きれいな瞳だった。全然変わっ てない。それがよけいに僕を悲しくさせた 「解らない…… でもそろそろなのかもしれない。最近はもう像を結ぶのが辛くな ってきたの……」 僕は黙ってあたりをぼんやりと眺めていた。 緩やかなカーブ、ガラスの破片、傾いた電柱、ひしゃげたガードレ ール、二つの花束……そして逃げてきた現実 「もう行かなくちゃ」 彼女は静かに宙に浮いていく 「忘れるなんてできないよ!今でも好きだ。僕はどうしたら……」 彼女は本当に悲しそうな顔をして弱々しく微笑み、夜空にとけ込 むようにして、消えた
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