第13回1000字小説バトル
Entry23
それは私たちのささやかな楽しみ。「九龍」の肉厚なシュウマイ。 皮がパリっとしていてジューシーな肉汁。11時半にスチームにの せると、12時10分にはふっかりといい按配に温まっている。 「最近、ちょっとビタミン不足なんじゃない?」と言って彼女が私 にグリーンピース豆を分けてくれたりもする。狭い休憩室のささや かなひととき。 ある時、シュウマイがひとつなくなっていた。 食べたの? 食べてないよ。君が食べたんじゃないの? まさか。 目の中で悪戯っぽく言い合ってみる。くすくす。 11個のシュウマイをとりあえず5個ずつ食べて、私はシュウマ イ好きなザシキワラシの話をした。彼女はうふうふ笑いながらグリ ーンピース豆を私の弁当箱の蓋に並べた。私はうふうふ綻ぶ小さな 唇に、最後のひとつをやさしく押し込んだ。 しかし3日続くとさすがに気味が悪い。 最近、シューマイ好きな小人がスチームの中で働いているらしい んだ。しかし彼女は笑わない。 「きっと誰かの嫌がらせよ」 「そんな人間がこの店のどこにいるって言うんだ?」 シャチョー、奥さん、金田主任、木村君。そこまで思い浮かべた ところで私たちは顔を見合わせた。 「王東順」 まさか。でも。だって王くんだよ。だって王くんじゃない。 私たちは炒飯だけが敷き詰められた王東順の弁当箱を思い浮かべ ていた。 午後、私と彼女と王東順の三角地帯に微妙な緊張感が漂った。 「王くん、3番に電話よ。さっきのお客さん、もう一度査定し直し て欲しいんですって」 「折り返しにしてください」 王東順は暗い顔をして席を立ち、休憩室に入った。私は彼女に目 配せしてその後を追った。 「なあ王くん、前から言ってるけど、査定は丁寧にやろうぜ」 王東順はスチームに手をかざし、気怠く窓の外を見た。 「僕なりにちゃんとやってますよ。さっきの人はおばさんのくせに 注文が多いから」 私はハイライトをくわえ、王東順に1本差し出した。 「どうした、最近何か辛いことでもあるのか?」 王東順は黙って煙草に火をつけ、くるくるとペンチを回した。彼 女がそっと忍び寄り、「九龍」の包み紙をスチームの上に置く。 「故郷のことが」と言って王東順は顔を伏せる。 「分かってるわ」彼女が王東順の肩に手を置いた。「一緒に食べま しょう」 私たちは遠い空を眺めながらシュウマイを口に運んだ。 「流れ流れて北千住」私が呟くと、「アジアは一つ、鈍色の空」と 王東順が付け足した。
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