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第13回1000字小説バトル
Entry27

零和

作者 : Default [でふぉると]
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文字数 : 1000
 人間ひとり当たりの幸福量は決まっている、とは思わない。しか
し、人間全体の幸福量の総和は一定なのではないだろうか。私はそ
んなことを考えながら、冷たいシートに腰を下ろしていた。
 私は待っているのだ。
 私の隣には慈善団体から派遣された神父が座っている。私には目
もくれず、じっと目の前の扉を見つめている。どうやら、意図的に
無視を決め込んでいるらしい。
 そうキラうなよ。おなじ穴のムジナじゃあないか。
 心の中で笑う。
 彼の所属する団体と私の会社は、寄付という名のもとに提携関係
にある。もう長年の付き合いだ。彼個人とも何度か仕事を共にした
ことがある。
 彼の仕事は、時間経過による商品価値の下落を最小限に抑える事
だ。この商品は鮮度が命である。商品、すなわち臓器だ。
 一般的に臓器は提供者の年齢、健康状態などから、Aを最高とす
る七段階のランク付けがなされる。しかし、どんなに評価の高い臓
器でも時間経過でいとも簡単にランクが落ちる。ランクが落ちれば
着床率は落ち、価格も下落する。よって、出来るだけ素早い摘出、
搬送が望まれるのだ。
 しかし、提供者の死に動転した遺族たちが、臓器の摘出を拒む事
も少なくない。そんな時、情と理を駆使した話術で遺族を速やかな
合意へと導くのが、神父の役割である。
 そして、私の仕事は、生前の提供者との契約通りに臓器を摘出す
る事だ。同時に会社は搬送にかかる時間や適合などを考慮した上で、
最も高く買ってくれる人――すなわち、病状が切羽詰まっている人
だ――にそれを売却する。
 提供者の死によって損をする人はいない。市場主義に則った見事
な連携プレーだと私は思う。
 もっとも、この見解は私自身のものであり、彼自身には異論もあ
ろう。彼は真面目で善良な宗教家なのだ。おそらく会社の利益優先
の態度が気に食わないに違いない。しかし、団体から給料が出なく
なれば、彼が食べていけないのも事実である。
 善意だけでは社会は動かない。そして、恐らくは彼自身もそれを
自覚しているはずである。
 まあ、考え方はどうあれ、仕事さえキチッとしてくれれば文句は
ない。分業と協力こそが我々にとって重要なのだ。

 不意に目の前のドアが開く。
 そうだ。それは待たされた揚げ句、いつも突然やってくる。
 私と神父は視線を交わし、頷きあう。二人の間の無言の確執はど
こかへ消えた。そう、分業と協力が重要なのだ。
 私達は立ち上がる。
 さあ、仕事の時間だ。






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