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第13回1000字小説バトル
Entry28

医療の発展

作者 : 羽那沖権八
Website :
文字数 : 967
「一体、この移植用臓器の何が悪いのかね?」
 医療機器メーカーの社長は、会議室の上座で首を傾げる。
「人間の遺伝子を組み込んだ豚を利用しているから、拒絶反応がな
く新鮮、強靭で安価。無菌育成しているから病気や寄生虫もない。
人間の臓器よりも遥かに条件がいいというのに」
「はい、私ども開発と致しましては、非の打ち所もない最良の臓器
商品として完成させておりますが」
 開発部長が禿頭をハンカチで拭く。
「なんだ、我々営業が無能だとでも言いたそうじゃないか!」
 茶を飲もうとしていた営業部長が、険しい顔で開発部長を睨む。
「技術屋はいつもそうだ。君らだけで会社が動いているわけではな
いぞ!」
「お言葉ですが、私ども開発がいなければ、あなた方は一体何を売
るおつもりですか?」
「な、なんだと!」
「営業部長、落ち着きたまえ、今のは君が悪い。焦る気持ちは分か
るが、今は犯人探しをしているわけではないのだ。そもそも、誰も
営業部の力を疑ってはおらん」
 社長は二人をなだめる。
「は、はい」
 営業部長は表情を僅かに和らげる。
「一言つけ加えさせて頂ければ、今回の移植用臓器につきましては、
営業部員一人一人に実際に移植用心臓を装着させた上で、営業に当
たらせております」
「うむ。そこまでやって、なぜ一個も売れんのだ? 需要はあるは
ずなのに」
 社長は茶を飲み干す。
「何者かの妨害工作、でしょうか?」
「厚生省と関係が深い我が社に、どこがそんなことをできると思う
かね?」
「やはり、我々営業部の努力不足かも知れませんな。よし、こうな
れば移植用肝臓も部員全員に――」
「それは、方向性が違う気がするのだよ」
「そ、そうですかな?」
「うむ」
 片手で頬杖を突きながら、社長は湯呑みに口を付ける。
「何か致命的な欠陥があるはずなのだ」
 空になった湯呑みを置いた。
「それを見つけない限り、みんな食肉業者に卸すしかなくなってし
まう」
「いや、GM食品の評判は悪いですよ」
「営業部がその程度売れないと思っているのか!」
「おいおい、論点がズレとるぞ」
 それからしばらくの間、沈黙が続いた。
「あの……」
 茶の入った急須を持って来た秘書が、遠慮がちに声を掛けた。
「何だね有坂君?」
 眉間にしわを寄せたままで、社長は秘書を睨む。
「どんなに安全で高性能でも」
 彼女は茶を社長の湯呑みに注いだ。
「豚はいやですわ、やっぱり」






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