第13回1000字小説バトル
Entry29
深夜2時15分。N.Y、ウェストサイド、8th.ストリート。 店の名前はSardi's。カウンターで、つぶれる男ひとり。 「おい、ジム。今日はどうしたんだい。ずいぶん荒れてるじゃない か」 店のマスター、ジョンが言った。 「いや。ちょっとな。50ドルあるんだ。もう少し飲ませてくれな いか」 「まあ、いいさ。気の済むままいたらいい。今夜はおいらもつきあ おう」 「悪いな」 ジムは空のグラスを持ったまま、顔をカウンターに載せ目を閉じた。 「マリーのことか、イタリア系の」マスターは聞く。 「いや、マリーは前の女だ。ブロンドの綺麗な女さ。 見た目はなかなかいい女だったけれどな、高慢ちきでちっとも良く なかったね」 ジムは8杯目のバーボンを飲みながら、うそぶく。 「そうだったか?それじゃなくて黒髪の。ほら、髪の短い・・・ おまえさんとよく踊ってた女だよ」 「マリアのことか。アングロ・サクソン系のだろ?ちょっと前の女 だ。 彼女はそう、気立ては良かったがな。やはり、それだけじゃな。可 哀想な事をしたと思ってる」 ジムは息をため息をついた。 「それじゃ、何かい。女がらみじゃなかったのか。そうやって荒れ てんのは。」 「いや、メアリーのことさ。」 マスターは、にやりと笑って聞いた。 「その、メアリーはどうなんだ。顔かい、気立てかい?」 「メアリーか。メアリーはブルネットのたまげるような美人さ。性 格も天使のような女さ、おいらはニューヨークいちの幸せ者だった。 だがそれも、さっきまでの事さ」 マスターはぴゅうっと口笛を吹いた。 「どうして、そんないい女を逃がしちまったんだい?」 「お遊びがばれてね」 「おまえさんほどの浮気上手がどうして。名前でも間違ったか?」 マスターは面白半分に話をでっちあげる。 ジムは顔をしかめながら頷いた。 「それがさ、名前じゃないんだが・・・。事が済んで、ついうっか りポケットから200ドル渡しちまったんだ」 マスターは気の毒そうにバーボンを注ぎながら、言った。 「馬鹿だなぁ。メアリーだっけ?そりゃ、たいそう怒っただろう」 グラスのふちから、バーボンがたれる。 「いや、彼女はひとつも怒らなかった。やはり、酔っていたんだろ うよ」 ジムは両手を広げ、ますます辛そうに答えた。 「ふうん。それじゃあ、メアリーはどうしたんだ?」 「彼女はさ・・・・・・。金を受け取るとそこから紙幣一枚返して よこして言ったんだ、50ドル多いわと」
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