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第13回1000字小説バトル
Entry32

小さな恋の物語

作者 : やまと
Website :
文字数 : 991
彼女は大きなキャンバスと小さな筆を持って、ここ城山公園のいつ
ものベンチに来る。彼女はここで絵を描き始めるのであった。そし
てその姿を見守るように、もう1人。歳は彼女ぐらいでいつもサン
グラスをかけており、白い杖を持った男性が。これはあの日以変わ
ることのない光景だった。

石里は先輩の中村と城山公園に来ていた。彼らはこの城山公園の芝
生を管理している城山園芸で働いており、公園の芝生の管理を任さ
れていた。管理といっても雑草抜きが専らの仕事。
「もう来てるぞ」
中村がベンチに座って絵を描いている女性を見て言った。
「いつも早いっスね」
石里は迷惑そうに言ってみたが何を隠そう、彼は毎日見かけるその
女性の後ろ姿に恋しているのであった。不器用なやつだな、中村は
そう呟いて微笑んだ。

その日は外出をためらうぐらいの豪雨で、視界がかなり悪かった。
石里は傘を探していたせいで、10分ほどいつもより遅れてしまって
いた。造園事務所の扉を開けようとしたとき、中村がずぶ濡れで走
ってきた。いつになく深刻な顔だ。
「大変だ。いつも公園に来ていた、例の、女性がそこで車にはねら
れた」
雨の音でよく聞こえなかった。いや、正確には耳が受け付けなかっ
たのだ。
「大井病院だ。急げ!」
傘をその場に放り投げて石里は病院へと走った。

「角膜移植が必要です」
「失明ですか?」
「角膜移植ができなければ------」
角膜移植は難しい。提供者が見つからないからだ。道は1つしかな
い。石里にもう迷いはなかった。

城山公園に彼女が再び姿を見せたのはそれから半年経ってからだっ
た。名前も知らない人が自分を犠牲にしてまで私の生命を、絵描き
生命を救ってくれた。是非お礼がしたい、いや自分の一生を捧げて
もいいくらいだ。そんなことを考えているうちに彼女は城山公園に
いつの間にか来ていた。彼女がいつものベンチに座ろうとすると、
そこにはサングラスをかけ、白い杖を持った男性が座っていた。彼
女が横に座ろうとすると男性は待っていたかのように話しかけてき
た。
「絵描きさんですか?」
温もりのあるやさしい声。目が見えないらしい。
「絵の具の匂い、したから」
彼女はその優しさに甘えたくなり、これまでのいきさつを話した。
「絵を描きつづけることです」
そんな2人のやりとりを、作業をしながら聞いていた中村は顔を上
げて男性を見た。
「ホント、不器用のやつだよ」
そう呟いて城山公園を後にした。






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