第13回1000字小説バトル
Entry33
mail: nothing@to.be というアドレスからメールが届く。 「おまえはニセモノだ」 と書かれ、一枚の写真が添付されている。 薄茶色にあせた古い写真。 遠い記憶の中にある、昔住んでいた家と母が愛用していた自転車 を背景にして、二人の子供が笑っている。 ひとりは、あなただ。 しかし、どちらが子供の頃のあなたであるのかわからない。 なにしろ鏡に写したように、二人はそっくり同じ顔をしているの だ。 写真の背後に写っている家は間違いなく自分の家だ。 自転車も間違いなく母親のものだ。 しかし、顔のそっくりなイトコがなどいただろうか? いつ頃、撮った写真だろうか? だれがこの写真を撮ったのだろうか? いったい誰が……。 少々ためらいを覚えながら押入を開けて段ボール箱を取り出す。 そこにアルバムが入っている。 赤い表紙のアルバムだ。 分厚いアルバムには生まれたときから幼稚園に入る前までの写真 が納められている。 表紙をめくる。 最初の写真には新生児が肌着にくるまれて眠っている。 ひとりの新生児だ。 次の写真も小さな赤ん坊で、泣いている写真だ。 その次は外出したのだろうか、ベビーカーに乗っている。 ベビーカーの写真が二枚つづき、次に布団に腹這いになって笑っ ている写真で、そのページは終わる。 ページをめくる。 赤ん坊は少し大きくなり、座れるようになっている。 写真は時間の流れを正確に追っているようだ。 赤ん坊はハイハイを始め、つかまり立ちをし、芝生の上を歩く。 ガラガラを振り回し、積み木を散らかす。 遊園地でメリーゴーランドに乗り、ソフトクリームの口ひげを付 ける。 すべてひとりだ。ひとりしか写っていない。 そして最後のページにたどり着くと、見覚えのある写真が貼られ ている。 メールで送られてきた写真とそっくりの写真だ。 遠い記憶の中にある、昔住んでいた家。 母が愛用していた自転車。 構図も変わらない。 しかし、笑っているのはひとりだけだ。 右側の子供だけが完全に消えている。 アルバムをもう一度逆向きにめくる。 そこでほくろを見つける。 左目の少し下に、ほくろがある。 歩き始めた頃からの写真にはすべてほくろが写っている。 メールもそうだ。 右側の子供だけに、ほくろがある。 あなたは洗面所に行き、鏡をみる。 鏡にそっくりの人物が現れる。 左目の下を、そっと触れてみる。 その位置に、ほくろは無い。
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