インディーズバトルマガジン QBOOKS

第13回1000字小説バトル
Entry34

大阪ロボット芸人・おスミ

作者 : 蛮人S
Website : http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3057/
文字数 : 1000
「社長、オハヨーゴザイマス〜」
 ロボット秘書のミスおスミが、お多福顔で微笑む。社長はほくそ
笑む。まずは挨拶代わりや。
「よっ、おスミちゃん、今朝もバストのシリコン満タンやねぇ」
 おスミは即座に答えた。
「ナーニンっチュートンばーヤジぃモウ!」
「はあ?」
(……あかん。きのう言語偏差いじり過ぎたか)
 ボケすぎである。が、ここで喋りをよどませてはならない。漫才
のリズムはコンマ2秒が致命的結果を招くのだ。しゃあない、ま、
汎用高いとこで。
「じゃかまし! 日本橋行って叩き売ったろか」
 一秒、二秒。
「ンナアホナー」
 社長は失望した。
「もうええわ……『失礼しました』」
 得意げに頭を下げ、音楽とともに待機モードへ戻るおスミ。
(反応が遅い。それに、もう一発くらい切り返してもらわな)
 社長は嘆息と共にソファへ体を沈めた。

 時に2015年。東京を時代ごと沈めた「東京湾大陥没」から1
5年。
(あの時は大はしゃぎやったな、大阪に新政府は出来るわ、京都に
天皇さんは戻ってきはるわ)
 だが、一部のええかっこしいを増長させた結果、大阪のアイデン
ティティーは急速に失われたのだった。今や首都大阪では誰も大阪
弁など喋らず、ボケツッコミのスリリングな即興も無く……
(大阪は、首都なんか似合わん街やったんや)
 社長は私的に漫才ロボ開発に着手した。これを各所、特にビジネ
スの場に量産配備すれば、大阪人は失われたエスプリをきっと取り
戻す。と(社長は)思ったのだが。
(ロボットに漫才、無理なんやろか)
 社長は再び嘆息した。

(こんな芸では人前に出れん。こんなんでは恥ずかしい……)

「なあ、おスミ、お前もう少しどないかならんか」
 応答が無い。
「こら、おスミ」
 一秒、二秒……
(さ、最悪や)
 沈黙は十秒近く続いた。
「……ア、何言ワハリマシタッケ」
「だはあっ」
 社長は手練のずっコケを反射的に繰り出していた。そうか、それ
や!
(たまに反応が鈍る己の弱点を、笑いとして提供する。基本やない
か。笑いのサービス精神というもんやないか。ようやった、ようや
ったおスミ……!)
「に、日本橋行けぇ、ポンコツ!」
 社長はおスミのチタンヘッドへ、渾身の突っ込みを入れる。
 かっぱあーん!
(ええ音、ええ音や……)
 真っ赤に腫れた掌の痛みを味わいながら、社長は涙声で叫んだ。
「しっつれいしました!」
 待機へ戻るミスおスミ。滲む視界に揺れる巨大なヒップは、亡き
妻のそれに似て。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。