インディーズバトルマガジン QBOOKS

第13回1000字小説バトル
Entry35

桜一日

作者 : 更羽
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文字数 : 1000
 川辺りで日差しが眩しい。
 わたしは桜の身で、もう何度となく経験した、花の季節を迎えて
いた。ひかりの中を、纏っていた花びらがこぼれていく。
 斜面のおかげで少し斜めに、日差しを避けるアーチのように枝を
伸ばしたわたしの下で、ビニールシートが敷かれはじめた。
 一組の男女がランチセットを広げて、昼食をはじめようとしてい
る。
 わたしは苦く笑って、伸びをするように意識を空へ向けた。
 数時間後、眠たげな声を聞いた。
「……ごめん。俺、しばらく眠る。じゃあね」
「じゃあねって」
 そっと視線を転じてみると、彼のほうはもう目を閉じている。し
ばらくすると寝息が。大柄な身体にはアンバランスに思える、長い
まつげが瞬かなくなった。
 脚をきれいにそろえて、直立の姿勢で、手は胸の上で組んで。
「まるで棺おけの中にいるみたいよ」
 彼女はそんな風に言って、あきれたように笑っていた。
 
 スカートの膝を抱えなおして、その上に自分の左頬を乗せて、彼
女はずっと彼を見ていた。半時もしてからようやく、顔を上げた。
 川から吹く風に、肩までの髪を後ろへなびかせて言う。
「ずっと一緒にいたいわ」
 誰に聞かせるでもない、独り言だった。声の調子も弱く、ほとん
ど風にさらわれていた。わたしはまた意識を逸らそうとした。けれ
ど次の言葉は、ほんの少し顎を上げて、焦点を結んだ瞳で、わたし
に発せられていた。微笑みながら、
「わかるでしょう?」
 わたしは梢を揺らした。わかるわ。とても。
(じゃあねって)
 男の人は何時も、そんな風にどこかへ行ってしまうの。

 「さくら……もう散るのね……」
 彼女ももう眠たそうだった。まぶたが半分落ちている。
 眠ればいいと、わたしは囁いた。
 彼女は腕を伸ばしながら、後ろへ身を倒した。今だけ至福の笑み
をして。そのまま寝入るのかと思ったけれど、にわかに寝返りを打
って、彼に顔を、近づけて再び目を閉じる。
 追いかけよう。
 そう、呟いたのがわかった。
  
 わたしは時折花びらを降らせながら、思いを遊ばせていた。昔に
立ち帰るのは簡単だった。けれどふと、時間を今に戻してみると、
自分が孤独だということがよくわかる。
 追いかけよう、と彼女は言った。そうきっと、それが大切。
 待つばかりでは桜になるから。
 川面の反射がだんだん強くなり、西日の色が濃くなって、遠くの
鉄橋に、何度聴いたかわからない、軋みを聴いた。

 先に目を覚ましたのは彼のほうだった。






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