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第13回1000字小説バトル
Entry36

ごみむし

作者 : 俊
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文字数 : 991
 夜、アイスを買いに部屋から出ると、ぱきっと音がした。足をど
けたら、ごみむしが潰れていた。放っておいたら三日後には、円形
のしみだけになった。ありんこがばらして食ってしまったのだ。
 その一ヶ月程前から、窓の下にはこうもりが転がっている。羽を
拝むように縮めて、仰向けのままでいる。風が吹くと少し動くので
ひからびている様だ。そのせいでありんこに食われないのだろう。
風で微妙に位置を変化させながら彼は三ヶ月程そこにいたが、台風
の日に消えた。その数日後、祖母が老衰で死んだ。実家に帰って祖
母の部屋に入ると、亡骸は拝むように手を合わせられていた。これ
を食うのがごみむしの領分だなと思ったりしたが、火葬場の煙突を
見てすぐにばかばかしくなって、そう考えるのはやめた。
 一週間ほどして、多摩のアパートに戻った。洗面器に溜まった水
の中に、活発に泳ぐ虫がいた。恐らくぼうふらだ。しばらく観察し
ていたら寒い時期になったせいか、皆蚊になる前に動かなくなった
ので、洗面器ごと近くの竹林に棄てた。虫も化けて出ることがある
だろうかと思って、何度か夜中にその洗面器のところへ行って目を
凝らしてみたが、四回目の時にそういえば人が化けて出るのすら見
たことがないと思い当たって、やめた。もう暖かくなってきて春休
みに入っていたので、実家に帰ることにした。
 実家では犬の散歩によく行かされる。春先は、川の土手沿いの桜
並木を連れて歩く。自転車の轍に潰れて茶色くなった桜の花びらが
へばりついている。蛙も何匹か潰れていて、その上には薄桃色の花
びらが降りかかる。犬はそれをいちいち嗅いでまわる。縄を引っ張
って草むらの一点に突っ込もうとした時も、蛙の匂いを嗅ぎ付けた
のだろうと思ってついていった。
 しかしそこにあったのは、もっと大きなものだった。足先に毛が
残っている、犬の死骸だ。骨の剥き出た体に付いている黒い斑点は
何かと思ったら、ごみむしだった。祖母じゃなくて犬の死骸を食っ
たんだ、多摩で踏み潰された仕返しにこんな気色の悪いものを見せ
たんだ、というようなことが脈絡もなく頭に浮かんだ。急いでその
場を離れた後、あれは本当にごみむしだったろうかと改めて考えて
みると、確信は持てなかった。
 両親が格子窓の病院に押し込もうとするのを制止して、多摩の部
屋にまた戻った。部屋の前に何かいるのが解った。何となく、これ
がごみむしだったら、と思いつつ玄関の明かりをつけた。でもそれ
はくもだった。そう確認したこの時から18年前、小さなくもが耳
の奥に入ってしまって、病院に行ったことをぱっと思い出した。
 何だ、関係無いじゃないか。ままならないもんだな。しかし一体
何と何がどう関係ないせいで、こんな失望を感じてるんだろう?
 二度、苦笑が洩れた。くもを潰して部屋に入ると、また染みと死
骸がそこには残り、死骸は五日後、影も形も無くなった。






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