インディーズバトルマガジン QBOOKS

第13回1000字小説バトル
Entry4

ワールドカップ

作者 : 雨耳
Website : http://www.geocities.co.jp/HeartLand/8486
文字数 : 900
 つまり、それはサッカーだった。そう、よくよく見てみると必死
の形相でこちら目掛けて押し寄せる彼らは、悪魔の軍隊といったも
のではなく、単にサッカーを愛する人々だったのだ。同僚の腕には、
黄色いキャプテンマークが巻かれて、日の光に輝く。

 これなら何とかなる。そう、そういうことなら、わたしにもしっ
かり受け止めることができそうだ。なにしろここにはルールがある。
うまくいくと逆に押し返す事だって不可能ではあるまい。

 だが、よくよく考えてみると、わたしはそうではなかったのだっ
た。あたりをしっかり見回してみると、何かが不足しているのに気
がついた。路地の入口がゴールの代わりなのだろう、あのそそり立
つ銅像が審判のつもりであるらしい。だが、肝心のボールはどこだ
ろう。どこにも見当たらない。わたしがボールであるらしい。その
事に思い至り、ホイッスルがフランスの空に響き渡る。

 彼らはわたしを豪快に蹴り上げた。ああ、こんなにも高くわたし
は舞い上がっていくのだなあ。「てっきり自分も人間だとばかり」
気が遠くなっていく。

 わたしはそのままゴールに突き刺さるかと思われたが、間一髪、
ディフェンスが間に合った。力任せに蹴り返される。わたしの家族
だとか、友人とかいった人々の登場だ。彼らが、対戦相手であるら
しい。彼らはボールを回しながら逆に相手ゾーンに攻め込んでいく。
「わたしもこのチームの一員のつもりだったのだけどなあ」

 左サイドを駆け上がった妹が、センタリングを上げる。妻がそれ
を胸でワントラップしてすぐ渾身のシュートを放つ。なにか得体の
知れない不気味なものであるかのように、ボールを蹴り込む。相手
に怖気を奮って押し付ける。「うちにしたって、そんなものは要ら
ないのだよ」だから、こんなにも豪快なシュートが打てるのだった。

 何度、意識を失っただろうか。ついに僕は、どちらかのネットに
突き刺さる。ネットにからめとられてもう身動き取れない。そして、
僕は呟く。「ボンジュール、マダム」ほら、言葉をしゃべるボール
なんてあるかい。「セシボーン」しかも、フランス語なんだよ。だ
けど、歓喜して抱き合う人びと、あるいは、がっくりとうなだれグ
ラウンドに横たわる人々は、それに気がつかないのだった。






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