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第13回1000字小説バトル
Entry5

ロスト

作者 : うめぼし
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文字数 : 1000
 処女を捨てると世界が変わるなんて言ったのは、一体何処のどい
つだ。
 傍らの電柱を思いきり蹴飛ばし、一人毒づきながら郁美は約束の
場所へと向かった。股にまだ異物感があり、足元がイマイチおぼつ
かない。厚底ブーツがこれほど不便に思った事はない。時々込み上
げる吐き気を我慢しながらふらふらと歩く。
 たどり着いた先にはすでに携帯を片手にした美紀の姿があった。
「どう、うまくいった?」
 差し出された煙草を咥えると、慣れた手つきで火をつける。慣れ
ているのはそこまでで、煙は肺にたどり着く前に大気と同化してい
った。
「もう少し待ってね、アイも今終わったって。で、どうだった?」
「どうって、別に何てことないわよ」
「初めてだったんでしょ」
 ただでさえ釣り上がっている郁美の細い眉毛がさらに釣り上がる。
喉元まで込み上がった言葉を煙と一緒に飲み込むと、美紀に悟られ
ないように軽くむせた。

 茜色に照らされた休日の繁華街、交差点内をとめどなく流れる人
波と、天高く舞い響くクラクション。私が変わった所で世界は何も
変わらない。
 やがてその人込みの中から、いつもと変わらない晴れやかな笑み
を浮かべながら亜衣が姿をあらわした。軽い平謝りを軽く聞き流し、
郁美達は次なる目的地へと向かった。

 結局、家に着いたのは午後十一時をまわっていた。休みの日なら
これはいつもの事であり、「ただいま」を言っても誰からも返事が
返ってこない事も、夕飯など用意されていない事も、誰とも顔を合
わさずに自分の部屋に閉じこもる事も、すべていつもと変わりがな
かった。
 部屋に入るとまず鍵をかける。部屋の中には誰も入れないように
しているので、いつも散らかっている。郁美は手に持った紙袋の中
から、買ったばかりのピンク色のバッグを取り出すと、鏡の前に立
ちポーズを決めた。普通のバイトならば一ヶ月分の給料を食い尽く
すような代物。あれほど欲しかったのに郁美には全く馴染まず、た
だ滑稽な少女が鏡の中に映し出された。
「なにこれ?」
 自分のあまりの滑稽さに、郁美は腹を抱えて笑った。笑いすぎて
胸が苦しい、目からは大粒の涙が溢れ出た。
 ひとしきり笑い終わり、呼吸を整えると、郁美は袖で涙をぬぐっ
た。それでも涙は一向に止まる気配がない。もう一度間抜けな自分
を嘲笑ってみても、鏡に向かってバッグを投げつけて怒ってみても、
電気を消してベッドの中に潜ってみても、その夜、郁美の瞼が渇く
事はなかった。






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