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第13回1000字小説バトル
Entry6

偽善

作者 : 埜間夏太
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文字数 : 985
わけあって、10年来の恋人と別れた。
恋人は去り際に、捨て台詞のようにこう言った。
「おまえは
***
わたしが13の夏、世間は気違いみたいに蒸し暑かった。
風呂からあがって扇風機を抱いて涼んでいると、隣家がにわかに騒
がしくなった。
母がサンダルを急ぎ足につっかけ見に出ていって数分後に、救急車
が来た。
「お母ちゃん広恵のうちどうかしたの?」としばらくして戻ってき
た母に尋ねた。
「なんかね、ご主人が倒れはったのよ。脳卒中みたい。」と母は声
をひそめた。
次の日、隣家の門前にモノトーンの幕が張られた。

広恵とは幼馴染という友情でくくられて、行動はしょっ中共にして
いたがもし隣家という縁がなくただのクラスメートだったら親しく
なっていたか分からない。
丸顔で丸い眼鏡をかけて、いつもほわわんとしていたが、話をする
と面白く鋭く、案外と頭のいい子だったのかもしれない。

次の日、月曜日だったけど広恵は勿論学校を休んだ。わたしも母に
言われて、夏休み直前の浮き足立った雰囲気の中、後ろめたい気持
で早退した。
われんばかりの蝉の声と、濃くて短い自分の影と。
広恵のお父さんとは挨拶以外で口をきいたことは殆どないが、それ
でも知ってる人が、しかも友達の近親者が亡くなったという事はひ
どく奇妙で有り得ないことのように思えた。
(こういう場合ココロの優しい子なら)と道すがらわたしは考えた。
(広恵がかわいそうだと思うべきだろう。そうだ、広恵がかわいそ
うだ。)
家に着いて、母に促されるままに広恵の家に行った。庭は緑の濃い
匂いと線香の匂いが入り交じってたちこめていた。
焼香の列の最後について、じりじりと太陽に焼かれながらわたしは
呪文のように頭の中で繰り返した。
「広恵がかわいそうだ広恵がかわいそうだ広恵がかわいそうだ…」
ぐっと深く首を垂れて目に力を入れていると、段々つらい気持にな
ってきたような気がした。目が乾いて、痛くなってきた。ぎゅっと
目をつぶると、涙がぽろりとこぼれた。すれ違う焼香客がちらりと
わたしを見た。
順番がきて、わたしは並ぶご遺族方に礼をした。顔をあげると広恵
と目があった。困ったような表情で座っていた広恵はわたしを見て、
にっこりと笑った。
わたしは、―― 笑い返すことができなかった。
***
 かわいげの無いやつだな。涙のひとつも見せないで。」
仕方がない。わたしの涙は、あの日しぼりだした分で品切れになっ
たのだから。






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