インディーズバトルマガジン QBOOKS

第13回1000字小説バトル
Entry7

南風吹く丘 君に逢う

作者 : オクムラ真保呂
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend/8710
文字数 : 701
 南風吹く丘で君と会う約束をしたのだけれど、僕はどうも春先と
いう季節が好きになれないんだ。せめてタンポポでも咲いて居てく
れたらなあと思いながら、妙に浮き足立った大人達を掻き分けて南
風を今日も探しているのだけれど、巷に吹く風はどれも冷たくて、
生温かい空気が僕の肺を一杯にしてしまってそれっきりなんだ。
 君との約束を果たしたいのだけれど、約束の丘は何処に在るのだ
ろうか。それどころか僕は色々な事を知らないんだ。いや、忘れて
しまったのかしら。例えば君は誰なのかとか、どうして約束をした
のかとか、約束の日は何時なのかとか。只、約束をしたのは確かな
わけで、だから最近僕は早く夏が来れば良いとそればかり考えてい
るよ。夏が来れば、君との約束は又来年になって、僕の肺に溜まっ
たぬるい空気も少しずつ溶けてしまう筈だから。

 南風吹く丘で君と会う約束をしてから、僕は春先という季節が待
ちどうしくて仕方がないんだ。ああ、タンポポが咲いて居なくて良
かったなあと思いながら、妙に浮き足立った子供達の間を駆け抜け
て、南風を今日も探しているのだけれど、巷に吹く風はもう暖かく
て、湿った梅雨の香が肺を一杯にしてしまってそれっきりなんだ。
 君との約束を果たしたいのだけれど、約束の丘は何処に在るのだ
ろう。僕は君が誰なのかとか、何の為に約束をしたのかとか、約束
の日は何時なのかとか、色々な事を忘れてしまったけれど、いや、
もとから知らなかったのかしら。でもね、そんな事どうでも良いん
だ、だって確かに君と約束をしたのだもの。だから夏なんて来なけ
れば良い。夏が永遠に来なければきっと僕は君に会う事が出来る筈
だから。最近僕はそんな事ばかり考えているんだ。

 僕と約束をしている君。君を待つ僕。そして、今年も君を想う季
節がやって来ます。約束の丘はまだ見つかりませんが、タンポポは
相変わらず咲きません。旅立つ君に一つの点から広がる花を贈りま
す。西へ消えて行く海、中心へ向かう森、閉ざされた果て。
 南風吹く丘で僕は君に逢うでしょう。






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