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第13回1000字小説バトル
Entry9

十年目の奇蹟

作者 : yoshi
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend/1581/
文字数 : 987
 同窓会の席上で、熊谷礼香がこんなことを言った。
「十年後、どちらもまだ独身だったら結婚しない?」
 すでに会も終わりにさしかかり、かなり酔いがまわっていたので、
俺は「別にいいよ」と軽い返事をした。俺も彼女も異性にもてた試
しがない。悪友からは、お前は絶対結婚出来ないとからかわれてい
たが、俺は強気に振舞っていた。熊谷礼香とでも結婚したらと言わ
れたが、彼女には悪いが、まったく俺のタイプではなかったし、ど
こか馬鹿にされているようで不愉快だった。確かに、周りでは男で
も結婚している者が増えてきた。焦らないと言ったら嘘になる。し
かし、自分の中では楽観的な部分もあった。人生は長いのだから、
きっと自分に相応しい女性が現れるはずだと。
 それから十年。俺は仕事に夢中になっていた。商品の買いつけで
香港や台湾あたりに行く事が多く、家にいることは月に数日くらい
の割合であった。ある日、台湾のビジネスホテルに泊まっている時、
自分宛に電話がかかってきた。最初は誰か分からなかったが、細か
く説明してもらい、それが熊谷礼香であることが分かった。俺の友
人などをいろいろまわり、電話番号をつきとめたという。突然だけ
れど俺に会いたいというので、日本に戻る一週間後に彼女と待ち合
わせをした。
 彼女とはここ十年の間、一度も会っていない。どこで何をしてい
たのかも分からない。とにかく俺に会いたいということは、何か理
由があるのだろう。予約していたレストランに着くと、すでに彼女
が席に座っていた。十年という月日は、思いのほか長かったようだ。
もはや学生の頃の面影などなかった。俺は仕事が詰まっていたので、
用件だけ聞いて早く切り上げるつもりでいた。しかし、彼女は呑気
にも食事の後に話すと言う。突然の呼び出しもそうだが、我侭な彼
女に少し腹が立っていた俺は、そんなものは後でいいから、早く用
件を言ってくれと急かした。
「十年前の事、覚えている?」
 十年前に何かあっただろうか。俺はまったく覚えていなかった。
そのことを彼女に告げると、かなり落胆していたようだが、気を取
り直して再び口を開いた。
「十年前の同窓会で、お互いにまだ独身だったら結婚しようと言っ
たでしょう?」
 そこでようやく俺は理解した。確かにそんな事を話していた記憶
がかすかにある。もしかして、彼女はその言葉を信じて、十年後の
今、俺を呼び出したというのだろうか。
「私、まだ独身なの。よかったら・・・」
「ごめん。俺、女房と子供がいるんだ」
 その言葉を聞いて、彼女は顔面蒼白の状態になった。そして、食
事が来る前にお金を置いて店を出ていった。俺は黙ってテープルに
座りつづけ、食事が来ると最後まで平らげた。
 その後、彼女と会う事は二度と無かった。同窓会でも彼女を見た
事がない。俺は謝らなければならない。嘘をついてごめん。俺は本
当は独身なんだ。






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