第14回1000字小説バトル
Entry1
最後に雪を見たのがいつだったのか、僕には記憶がない。 君に出会うまでは、本当の雪なんて見ていなかったのかもしれない。 君に出会った瞬間、僕の心の風景は真白だった。 どんな遮りもない、ただひたすらの白だった。 僕は怖かった、この手で君を汚すのがどうしようもなく怖かったん だ。 戸惑っている僕を見て、君は言ったね。 「曇りなき空などないの、純粋なものなどないの。そこにはいろい ろなものが混ざり合って、そうしてそれがそこにあるの。それを純 粋だと、曇りがないと思うのは、あなたがまだそのものに触れてい ないからなの。手にとって深く見れば、そこに様々な色が見えてく るわ、音が聞こえてくるわ。そして、それをあなたは愛せるように なるの。怖がらなくても大丈夫。あなたの色が私を染めるの、私の 色があなたを染めるわ。どんな色になったって後悔はしないわ、だ ってこの空も、あの山も、川のせせらぎも、こんなに美しいんだか ら・・・」 最後に雪を見たのがいつだったのか、僕には記憶がない。 君に出会うまでは、本当の雪なんて見ていなかったのかもしれない。 僕はただ、そのイメージを浮かべていただけなんだ。 雪が白いと、ただ勝手に決めつけて、そこに立っていただけなんだ。 僕は今、しっかりと雪を踏みしめて、大きくのびをした。 そして、僕は初めて雪が白いんだと思った。 涙がでた。 君は僕の手をそっとにぎり、「大丈夫?」と言った。 僕は君の手をしっかりにぎり、「大丈夫」と答えた。 君がそっと微笑む、「さあ、いこう」そう言って僕は大きく息を吸 い込んだ。 君は目を輝かして、僕を見た。「うん」 僕達は歩き始めた、しっかりと大地を蹴って、 心の中でもう一度「大丈夫」、そう繰り返して空を見上げた。 そこには眩しいくらいの青い空があった。
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