第14回1000字小説バトル
Entry13
その日は、雨が降っていた。 上着のフードをかぶれば、気にならない程度の雨だった。すぐにや むものと思っていた。だから傘なんて、持たずに家を出た。友人の Yとの待ち合わせがあるので、渋谷へ向かっていた。井の頭線に乗 り換えるの為、下北沢で電車を降りた。ホームで電車を待つ。ホー ムの向こうの、線路沿いの道路を行きかう人々をみた。傘をさして いる人は、ほとんどなく、家を出た時よりも、雨は小ぶりになった ようだ。 渋谷で電車を降りた。何故、こんなに渋谷に人が集まるのだろう か。改札までに、随分時間がかかった。隣にいた女子高校生らが、 「こういう駅をあと何箇所かつくればいいんだよ。そしたら人が分 散するのに」 と言った。わかるような、わからないような理論だと思った。改札 を抜け、階段を降りる。いつも騒がしい駅だが、今日は一層騒がし かった。騒音のような、まばらに地面に向かって鳴る音楽。周りを 見渡した。その音楽は、空から強く打ちつける雨音だった。うかつ だった。井の頭線に乗っているあいだに、天候が変わっていた。ま るで、子供がだだをこねるように、突然に、激しく。困った、待ち 合わせの場所まで、結構距離がある。アイツは、単に金がかかると いう理由だけで、携帯電話を持っていない。傘を買う気にはなれず、 地下通路を歩く事にした。 地下通路の入り口まで、すこし距離が あるので、フードをかぶりなおして、走った。10歩ぐらい走れば、 イケる。待ち合わせの時間に少し遅れていたので、大股で走った。 屋根のあるところにつく、最後の一歩。そして、着地。………のは ずだった。雨で地面が濡れている事など、考えもしなかった。右足 のかかとが地面に着地した瞬間、ギュムッと、鈍い音と共に、体は 後ろに傾いた。マズいと思ったが既に遅かった。次の瞬間、頭を階 段の角で強打し、仰向けのまま、頭を打ち続けながら、階段を滑り 降りた。遠くで女の人の、キャーという悲鳴が聞こえた。景色がぼ やけ、歪んでいく。自然に目が閉じた。 目を開けたら、僕は病院にいた。随分ハデに転んだにもかかわ らず、怪我は頭を少し縫う程度ですんだ。今日で病院に来て3日目。 窓の外を見ると、今日も雨だった。僕の隣には、ひとりの看護婦が いる。彼女の右手は今、僕の左手とからみあっている。怪我の代償、 ともいうべきか。たった3日で、偶然にも、恋におちてしまった。 今日も、雨が降っている。
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