第14回1000字小説バトル
Entry16
「鮫、そう鮫だ!」 私は無性に鮫が食いたくなった。まだ間に合う。私は魚屋へと車を 飛ばした。ちょうど魚屋の親父が店じまいの準備をしているところ だった。私は息を切らせて走りながら叫んだ。 「おやじ! 鮫くれ、鮫!」 親父はそんな私を無視して店を閉めようとした。ちょっとムッとし た私は言い方を変えてみた。 「おやじ! 傘、傘忘れてる!」 するとおやじはこっちを振り向いてニッコリと微笑むと 「あいよ、鮫ね。今日の鮫は生きがいいよ」 と相変わらずの毒舌ぶりである。 と、その時! 「爆発まであと1分です」 しまった、時間がないっ! 1時間後 私は大きな鮫を抱えて厨房へと飛び込んだ。鮫をまな板にのせ、 包丁を手にとった。 鮫はまだ生きていた。 私は魚をさばいた事なんてなかったが、思い付くまま適当にやって みた。とりあえず一刻も早く鮫が食いたかった。なにを作ろうかな んて考えもせず、とにかくその大きな鮫をさばいた。私の体は返り 血で真っ赤になっていた。 「先生、時間がありません!」 「わかっている」 私は黙々と続けた。 「容態が急変しました! 危険な状態です!」 そんな声が飛び交う中で私は一心に集中して鮫をさばいた。 2時間後、とりあえず船盛りみたいなのが何とか完成した。 鮫はまだ生きていた。 「ふう、完成じゃ」 「やりましたね、博士」 助手の佐々木君は疲労を隠せない満面の笑みで笑いかけた。 「うむ、ではスイッチを入れるぞ!」 「スイッチ、オン!」 それはゆっくりと動き出した。そしてゆっくりと立ち上がり私にこ う言った。 「オハヨウゴザイマス、ゴシュジンサマ」 私は目の前が真っ暗になった。 「し、失敗じゃぁ」 私はがっくりと膝を落として切望にうちひしがれながら泣いた。助 手の吉川君と抱き合って泣いた。実に三日三晩泣いた。 ちょうどその時、遠くで花火の音がした。 「夏ですなぁ」 隣のじいさんがランニング姿でうちわ扇ぎしながら話しかけてきた。 (はっ、そうか夏か!) 私は船盛りになった鮫を抱えて大急ぎで車を飛ばした。海だ、海へ 行くんだ。頼むから死なないでくれよう。私は神に祈った。もう鮫 なんか食いたくなかった。というよりむしろ、愛していた。こんな に切ない気持ちは初めてだった。私は海に着くとその巨大な大海原 へと鮫を投げ捨てた。 「もう捕まるんじゃないぞー」 私は涙が止まらなかった。すべてが美しく見えた。水平線からちょ うど日が昇ってきた。 鮫はまだ生きていた。
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