第14回1000字小説バトル
Entry18
時を重ねるにしたがって、時間は次第にその速度を増していく。そ れにつれて空間はその姿を湾曲させる。それはあくまで規則正しい 運動で僕の視覚で感じる世界の形態を溶かしていく。色彩や明暗は 少しづつ混ざり合い、黒に征服されていく。音は切れ目を失い壊れ たラジオのような雑音がひっきりなしに流れている。僕も自分の体 をその形のまま維持することがだんだん困難になっていき、崩れ落 ちる肉体を異様に敏感になっている感覚神経全てで自覚している。 不思議と恐くない。むき出しになり鋭敏になった感覚は時間を感じ つつ、世界との一体感を持って崩壊していくからだ。時間は僕を突 きぬけるように感じられ、それ以外のものは感じることができなく なってきている。今度は僕の感覚が失われつつあるのか、それとも 感じることができるものが無くなりつつあるのか、それすらもどう でも良くなってきている。空間は闇に覆われ、上も下も無い深海の 底にいるようだ。ついに時間もその速さを極限まで高め全てを破壊 した挙げ句、自らの存在すら失っていく。僕はついに感覚を失い、 そして僕という存在自体も消え失せていく。 その時僕は君のことを想った。 時間も空間も運動を停止し、何もかもが消え失せたその世界の最後 の瞬間に彼は私のことを想った。無限の闇の中で彼の思念だけが残 った。思念はその居場所である肉体の存在を失い、時間も空間も存 在を失ったそこで、形も色も無く物理的な運動もしていなかった。 ただ思念だけがその存在を知覚することができた。いや思念にとっ て思念だけが世界の全てであった。そして彼の思念に残った最後の 印象である私の映像が思念そのものであった。それは彼の一部であ り、彼の全てとなり、彼のものではなくなっていた。時間が失われ た世界の永遠の一瞬、今ははそれを暫くとしよう。暫くして、彼の 思念は、いや私という一個の思念はゆっくりと運動を開始した。ま ず私という思念は私の外部にある闇を知覚した。その事により私は 存在を獲得し、それにつれて時間が再び運動を開始した。無の中か ら少しづつ色彩が現れてきた。それはコーヒーの中に落ちたクリー ムのように広がっていき、やがてそれは立体を形作っていった。私 という思念は次第に概念的なものから物理的な体を整え出した。私 の感覚は戻り眩し過ぎる光を感じた。風を体に感じた。そこはいつ もの世界だった。ただ彼だけが消えて、そこに存在したのはまさし く私だった。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。