インディーズバトルマガジン QBOOKS

第14回1000字小説バトル
Entry19

ドレクセル

作者 : カサドラ・カノ
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文字数 : 965
 僕らがその情報を頼りにして、その急な流れの川の上流についた
のは午後を少し回ったぐらいだった。僕らはそこで情報が教えてく
れた通りの大きな裂け岩を見つけることができた。岩の裂け目には
一本の木が川の方向に伸びていた。僕らはそこで彼女を見つけた。

 その大木のしなだれた枝の一本で首を吊って死んでいたのは、か
つてドレクセルと呼ばれていた僕の知り合いの女の子だった。

 女の子は何かの事故でつまずいて引っ掛かってしまったようにみ
えた。女の子はレインコートのフードをうまく利用して首を吊って
いたのだ。しかし、僕らの仲間の誰もが彼女が自殺したということ
を確信していた。

 どんな風にして彼女はこの不安定なところに身を持ち込めたのだ
ろう、それよりもこの木の枝がよく彼女の体を持ちこたえられたこ
とが不思議だよ、と彼女のかつての友達が話し合っていた。
 確かに、少しの加減で彼女の死体を吊った木の枝はもう折れそう
なほどしなっていたのだ。女の子の体は川に伸びた枝の先に滑って
いて、つま先はもう川の水面に触れていた。

 僕らはゴムボートを二隻用意していた。

 僕らは彼女の体を捕まえるため、さらに上流からゴムボートをだ
した。最初のボートがでて一人が大きく背伸びをして彼女を捕まえ
ようと手を伸ばした。ボートは川の流れによって強く右に傾き、彼
女の体から大きくそれた。つかまえそこなった一人は彼女の体を悲
しそうに見送りながら流れの向こう側へと消えていった。
 もう一隻のボートには僕が乗ることになった。なるべくボートを
右に保ちながら、彼女から離れないように注意した。僕は立ち上が
り彼女の体を捕まえるために大きく手を拡げた。今度はうまくボー
トは彼女のすぐ脇へと流れていった。彼女のレインコートの裾がす
うーっとボートの脇にカーテンのように触れた。彼女を捕まえよう
と身構えたとき、川面に突き出していた岩がボートに接触して、ボ
ートが大きく右へ旋回した。その直前に僕の人差し指が彼女の太も
もをかすっていた。
 ボートが急流を下り、彼女が首を吊った木は遠ざかっていった。
彼女の姿を僕は黙って振り返るしかなかった。彼女の体は風の計測
器のように、ゆるく回転をしていた。枯れた枝はそれでも彼女を離
そうとしなかった。

 僕らはそうしてかつてドレクセルと呼ばれていた女の子に見送ら
れていったのだった。






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