第14回1000字小説バトル
Entry2
カラスはじっとしていた。光が、金の鱗粉をさらりとまぶしたみ たいに体に落ちた。私はカラスのまぶたの、丸みに沿って光沢を帯 びた様子に眼を移した。閉じられたものと思い込んでいたまぶたは、 実は開いているのではないか。そのようにも見えた。 「なぜ確かめなかったの」 Bの声には予期しない非難の調子がこもってい、私は訝った。も しカラスのまぶたが開いていたのであれば、伏せてあげなければ、 とでも、Bは言うのだろうか。 「まだ生きてたのかもしれないでしょ」 Bの眼に、挑みかかるような光が宿った。 なるほど。もしカラスがまだ生きていたのなら、救命に向けてし かるべき処置をとるべきであった。Bはそのままに放置した私を責 めているのだ。 いかにも、私は見つけたときから、カラスは死んだものと決めこ んでいた。面前の死という状態は、強く私に訴えた。何でもいい、 頭に言葉を巡らせて、平静の心持を取り戻したかった。 そのように言っては、少しく大袈裟であろうか。さよう、いま一 度顧みるに、私はむしろ平静であった。ある時、道端にぼろ雑巾を 見つけ、近づいてみると、半ば猫に噛みちぎられたスズメだった。 それがスズメの死骸であると認識したとき、私は思わず跳び上がっ て、百メートルほども駆けた。そのときの悪寒の感触までありあり と思い出されることと比べると、カラスの死骸が私に与えた衝撃は、 全くもっておとなしいものであった。やはりカラスの体には、何の 損傷も見当たらなかったことが、私にとって大きい。 だが、こうも考えられないか。スズメの死骸を見て跳び上がった 経験をもつ私は、再び同様の無残さに触れることには耐えられなか った。私の網膜が小動物の、羽のむしりとられたみじめな跡や、は み出した内臓のぬめりにさらされるといった事態は、何としても避 けねばならぬ。そんなわけで、私はカラスの体に損傷のないことを 願っていたから、裏返して検めてみたりはしなかった。私は観察も そこそこに電柱の陰を離れた。 「でも知らなかったの?」 Bの問いかけに、私はしばしの省察から引き戻された。「カラス の目玉って、すごく高く売れるんだ。ネックレスにしたりするんだ って。死んでからしばらくは措いたほうが色に深みが出てくるんだ けど、でもまぶたが開いてるとすぐに腐食が始まっちゃうから、死 んだらすぐに伏せてあげないと」 Bはいたずらっぽい笑みを浮かべている。
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