第14回1000字小説バトル
Entry20
工場長は魔法使いでありました。工場では夏には団扇、冬には湯 たんぽを生産しておりました。生産工程は同種の工場と類似してお りましたが、最終工程が異なっておりました。工場長は製品のひと つひとつに少しだけ魔法をお掛けになりました。少しだけの魔法に よって、団扇は他の団扇より少し涼しく、湯たんぽは他の湯たんぽ より少し暖かく仕上がりました。このような魔法の使用は魔人協会 の厳しく禁じるところでしたので、工場長はそれら製品の宣伝を一 切為さりませんでした。しかし、製品の評判は口コミだけで湖面の 小さな波紋のように広がって、大いに売れ行きを伸ばしました。 もはや街の住民は全員、団扇と湯たんぽを常備しており、暑さ寒 さを恐れなくなりました。従って、もう誰も団扇も湯たんぽも購入 する必要がなくなりました。工場には余剰製品の山が出来、工場長 は工員の皆さんに給料を支払う事すら出来なくなりました。 そこで、工場長は新製品の開発を決意されました。今や暑さ寒さ から救われた街の住民に新たなる幸福をもたらす刺激をもった製品 として、工場長は魔法の帽子の生産及び販売を決断されました。魔 法グッズの販売は魔人協会の目に触れ易く、危険な行為でしたから、 どの魔法使いも行なっておりませんでした。魔法の帽子の生産及び 販売は、その点を逆手にとった、工場長の大胆な賭けでありました。 また、「全ての人に幸福を与える」というコンセプトを持った、か ぶるだけで魔法が使い放題になるという魔法の帽子は、いわば工場 長のライフワークと位置付ける事の出来る製品でした。 魔法の帽子は、大きな津波が人々を圧倒するように爆発的に売れ ました。街の住民は先を争って魔法の帽子を購入し、思い思いの魔 法を使いまくりました。全ての事が全ての人の思い通りに成りまし た。工員の皆さんもやっともらった給料で魔法の帽子を購入し、思 い思いの夢を叶えました。街中の人が幸福へのエスカレーターに乗 りました。街中の人は幸福になったでしょうか。 一ヶ月後、工場長はしかし、街中の人が捨てた魔法の帽子の大き な山の前におられました。後ろからやってきた魔人協会の会長は、 無言のままで工場長の全ての魔力を剥奪していかれました。工場長 は魔法の使えない只の工場長になられてしまいました。そして、街 の全ての住民と同様に普通に暮らす事になられました。工場長が次 の新製品の開発を決意されたのは、半年後の事でした。
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