第14回1000字小説バトル
Entry21
彼女は自分の性格が嫌いだった。幼い頃両親に愛されなかった為 か、自信が持てずいつもくよくよと悩んでいた。人に傷つけられて は悩み、人を傷つけては悩み、そのつど自己嫌悪が黒い染みのよう に広がっていった。いっそ死んでしまえばどんなに楽だろう。彼女 がそう思わない日は一日たりとなかった。 ある夜、彼女の夢に吸血鬼が現れた。黒いマント、白い肌、赤い 唇、そして鋭い犬歯。絵に描いたような吸血鬼である。はまりすぎ たその姿で、彼女はすぐ夢だと気づいた。 夢の中で吸血鬼が語りかける。 「君の血を吸わせて欲しい。その代わり、誰にも負けない強い身体 と心を、君に与えよう」 どうせ夢だという気安さと、自分なんかどうなっても構わないとい う自虐心から、彼女は首肯した。 目覚めた時、彼女は思った。 「なんてくだらない夢を…、私って本当にダメね」 そうやって常に自分を否定するのが彼女の癖だった。 夜明けまでまだ間がある。何気なく首筋に手をやって彼女は愕然 とした。この2つの傷は?そして、この感触は……血?まさか? 慌ててベッドサイドの手鏡を引き寄せたが、鏡の中には何も映って いない。そういえば、聞いたことがある。吸血鬼は鏡に映らないの だと…。 彼女は悲鳴とともに跳ね起き、救いを求めて家の外へ走り出た。 中天の満月が皓として路上を照らしている。昼間とまごうばかり の明るさだ。月光のなかに大男が一人立っていた。振り乱れた髪、 耳まで裂けた口、太い牙。狼男だ。 彼女は驚いて立ち尽くす。狼男なんているわけない。が、すぐに 気付いた。 自分だって…、もはや人間ではない…。 狼男は唸り声をあげ襲いかかってきた。彼女は振り下ろされた腕 をとっさに左腕で弾き、右肘を相手の鎖骨に叩きつけた。 「どうしてこんなことができるの?これも吸血鬼の力なの?」 ちらっとそう思ったが、今はそれどころではない。狼男は一瞬たじ ろいだが、すぐまた掴みかかってきた。彼女はその腕をかいくぐり、 相手の膝裏に足刀を蹴り込む。膝から落ちたところを、鞭を振る勢 いで左の回し蹴りを後頭部に叩きつけた。常人なら一瞬で悶絶した だろう。だが、狼男は平然と起きあがる。 死闘だった。 拳と拳がぶつかり合い、臑と臑がはじけ合う。両者の体に無数の傷 が増えていく。いつ果てるともしれない闘いが続く。だがついに、 彼女の右貫手が狼男の左目を深々と抉った。ひるんだ所をさらに左 の貫手が右の目を…。たまらず狼男は背を向けて逃げ出した。 彼女はその背に向かって、圧倒的な開放感と共に叫んだ。 「たかが狼男風情が!誇り高き吸血鬼様をなめんじゃないわよ!」 夢の中の吸血鬼は約束を守ったようだ。
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