第14回1000字小説バトル
Entry24
空をおおう冬の雲の色に染められて、街は灰色だった。 そんな街をさまよう一人の男がいた。 長く乱れた髪の毛に、その表情を窺い知ることはできない。だら しなく着崩したスーツの横腹を手でおさえながら、男は街を歩く。 不思議な事に街行く人々は、汚い風体の彼とすれちがっても、嫌 悪の表情を浮べることがなかった。ただ、彼をよけて通り過ぎる。 まるで、彼が存在が嘘であると言わんばかりに。 しばらくして、男は寂れたビルの立ち並ぶ一角で立ちどまった。 そして、ビルの隙間にできた細い路地を見つめる。 「ここか……」 疲れたようなかすれた声でそう呟くと、男はその路地へと足を踏 みいれた。 しばらく行くと、幾人かの少年の声が男の耳に飛びこんできた。 「なあ、いいじゃんよ」 「イイとこ連れてってやるからさ」 そして、下卑た笑い声。 路地の奥は四方をビルに囲まれた小さな空き地となっていた。 土の地面が露出したその空き地の隅で、OL風の若い女が、若い 少年たちに囲まれている。どうやら、彼らが先ほどの声の主らしい。 女は少年たちの誘いを断っているようだが、その拒絶はあまりに も弱々しかった。 男は無造作ともいえる歩調で少年たちに近づいていった。 やがて、少年たちの一人が男に気付き、男の歩みを遮るように立 ちはだかる。 「ここは俺らの貸し切りだ、おっさん。失せな」 少年の言葉に男はしばらく沈黙していたが、不意に 「……初雪か」 そう漏らした。 少年は怪訝な顔をして空を仰ぐ。しかし、空は雲におおわれてい るものの、雪がふる気配はない。 「あ? 雪なんか降って――」 言葉を途中で切るように男の拳が飛び、少年の鳩尾をとらえた。 少年は目を見開き、屈みこむような姿勢のまま地面に倒れ、痛みに 悶える。 「この野郎!」 ほかの少年たちは逆上し、男に襲いかかってきた。 「……これは罪」 男はそう呟き、すこし口元を歪めた。 数分後、男は左手を横腹にあてて、ビルを背に地面に座りこんで いた。 勝負は一瞬だった。 少年たちは逃げ去った。女は男の傍へとやって来てしきりに礼を 言っていたが、いくら話しかけても男が無反応だったので、やがて どこかへと消えた。 「これは罰……くっ、くくっ」 男は嗚咽するかのように低く笑い、腕で右ひざを抱え込んだ。そ して、うなだれるようにこうべを垂れる。 曇った空から小さい空き地へと、ひとひらの雪が舞い降りた。 男は静かにその瞳を閉じる。
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