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第14回1000字小説バトル
Entry28

安全基準

作者 : 羽那沖権八
Website :
文字数 : 961
「へえ、これが世界最強の衝突安全ボディか」
 四谷京作は、車の白いボディを押してみる。
「お気に召しましたでしょうか?」
 明らかな営業スマイルを浮かべ、ディーラーはカタログを手渡し
た。
「この『ゴリアテ』は、乗員の安全を第一に考えて設計されていま
す」
「見た目は確かに頑丈そうだなぁ」
「はい。圧縮鋼を使用したキャビンは、従来の車両と比べて強度が
七倍です。更に、衝撃吸収シートと全面エアバックで、乗員は完璧
に守られます」
「ふーん」
 四谷がカタログの仕様の欄を見ると、『安全基準』の項目にAが
七つ並んでいた。
「えーと、Aが七つってことは――」
「最大法定速度――つまり、時速八〇キロでの正面、側面、背面、
オフセット衝突、その全てにおいて乗員が軽傷すらも負わない安全
性能ですよ」
「大したもんだなぁ……でも、ガードレールが突き刺さる、なんて
事故もあるそうだけど?」
「車体内部に戦車の跳弾構造を模したセラミック骨材が仕込まれて
いますので、よほどの事がない限り、乗員に突き刺さることはあり
ません」
「なるほど」
 車のドアを開け、四谷はシートに座ってみる。
 外見よりも内部は少々狭めだが、それがかえって重厚で堅牢な印
象を与える。
「思ったより、座り心地のいい椅子だなぁ」
「はい。シートの衝撃吸収素材『アバドン』は、事故の衝撃吸収だ
けでなく、座る際の腰の負担も軽減します」
「ほお」
 四谷は四点式シートベルトを締める。衝突時には、両肩を押さえ
てくれるのがよく分かる。無論、緊急時のベルトカッターも用意さ
れていた。
「ぶつけてみたいな」
「それはご勘弁を」
「冗談、冗談」
 ハンドルをぽん、と叩く。
「確かに、ドライバーの安全を第一に考えた素晴らしい車だ」
「はい、ゴリアテに乗っている限り、事故死も怪我も、あり得ませ
ん。これが、二十一世紀の車の形ですよ。単なる移動手段で死や怪
我のリスクに怯えるなんて、ばかばかしい話ですからね」
「うん」
 四谷はディーラに頷いた。
「買わせて貰おう。ちょっと高いが、安全のためなら安いもんだ」

「あれ? 四谷はどうした?」
 会社の同僚が空のデスクを不思議そうに見る。
「自動車事故で病院です」
 パソコンを操作しながら、OLは素気なく答える。
「ええっ? け、怪我は重いのか!?」
「四谷さんは全く無傷だったけど、轢かれた歩行者が重傷ですって
よ」






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