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第14回1000字小説バトル
Entry34

ED

作者 : 鮭二
Website : members.aol.com/Shakeji/papyrus.htm
文字数 : 1000
 夕子はスカートの中にきちんと両膝を折り込み、夕日の落ちかけ
た荒川河川敷の土手に座っていた。双眼鏡を目にあてると千住新橋
の下を抜けた片桐の白衣姿が視界に入る。予定通りにも関わらず、
あっと声が漏れる。手を振りたくなるが、夕子はそれをぐっと押さ
え付ける。感情を無理遣り押さえ付けると、どうして体がこんなに
熱くなるんだろう。彼女は折り畳んだ両足にぎゅっと力を入れ、湧
き上がってくる熱い波をようやく押し止めた。
 サドルが刺激する。長年の試行錯誤によって、千住新橋から西新
井橋に向かう河川敷の路面が最も自分に適した刺激を与えてくれる
ことを片桐は知っていた。その時々の路面の乾き具合、うねり具合
から自分がどのような力をペダルに与え、その結果どのような刺激
がサドルから与えられるかを熟知していた。
 夕子は双眼鏡で片桐の目を追った。自転車を漕いでいる男の全体
像は、紛れもなく教壇の上に見る片桐の姿だった。いいかい、野島
くん、これがフレミング左手の法則だよ。カーテンの閉ざされた理
科準備室で彼女の熱い波を導き出している最中でさえ、片桐の目は
教壇で見るそれと何ら変わりがないように夕子には思えた。
 しかし、自転車を漕ぐ片桐の目は明らかに常ならぬ熱を帯びてい
た。涼しげな走法がより一層その熱を際立たせている。夕子の半開
きになった口から吐息が漏れる。双眼鏡を支えていた片方の手が静
かにそこを離れ、躊躇いがちにスカートの中へ入っていった。
 やがてサッカーグラウンドの手前で自転車は停まった。片桐が壊
れ物を背負うような姿勢で土手を上がってくる。夕子は双眼鏡を外
し、スカートの中にあった手でぎゅっと草を握り締めた。片桐が夕
子の前に立ちはだかる。
「野島くん、ほら」と言って片桐は白衣の前を広げる。
 夕子はその固く隆起した場所に目を奪われ、声が出ない。
「ね、ちゃんと」言いながら腰を突き出すと、彼の頂が鋭さを増す。
「触ってみたまえ」
 夕子の右手が草を離れ、白衣を伝い、吸い込まれるようにその場
所に辿り着く。
「先生、疑ったりして御免なさい」
 ようやく言葉を絞り出すと、彼女はきっぱりとそこに頬を寄せる。
片桐は満足そうに頷き、白衣で彼女の頭を覆った。
「いいかい、野島くん。きちんと条件さえ揃えばエネルギーは生じ
るのだ」
 それは教壇で発せられる物理教師の声に相違なかった。夕子は熱
い波をとろとろ溢しながら、その言葉を心のノートに書き留めた。






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