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第14回1000字小説バトル
Entry36

もっくん未熟者

作者 : 蛮人S
Website : http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3057/
文字数 : 1000
(退屈だなあ)
 と、もっくんは思った。それはヤバイ事だった。
(腹へったなあ)
 もっくんは、生まれて半月の幼いくもである。かわいい巣を張り、
住んでいる。最初の一週間で、体が倍に成長したのが自慢だった。
それでも傍目には、巣にくっついたゴミみたいなものだった。
 ここ数日、彼は巣網の上で、やたらに青い五月の空ばかり眺めて
いた。「客」はなかった。
(何かしないとなあ)
 と言っても、彼の仕事は待つ事ばかりである。
 嘆息して視線を落とすと、下ではアリたちが忙しそうに立ち回っ
ている。彼らは葉っぱとか草の実とかを抱えては、右へ左へ走り回
り、たまに止まったと思ったら、油虫の尻をぱこぱこ叩いたり、仲
間とわけ知り顔で話しこんではまた走り出すのだった。
(やっぱりあれが普通なんだよなあ)
 網のメンテでもしよう、と体を動かした時、重い振動が巣を揺す
った。
「客だ〜」
 もっくんは勇んで飛び出した。

 ハエだった。
 ただ、もっくんより十倍はデカかった。もっくんは息を飲んだが、
ここで引き返すわけにも行かぬ。思い切って叫んだ。
「やぁやぁ〜我こそは相模国にその名も知れた姫黄金蜘蛛が長子、
もっくんナリ〜! いざ尋常に――」
「五月蠅い!」
 ハエは紅い複眼で睨むと、ぶぃんと羽を震わせた。ついていた糸
が消し飛び、もっくんの網は大きく傾いた。「きゃ〜」
「おぅ、ようも散歩の邪魔ぁしてくれたのぅ! わしゃ越年モノじ
ゃ、きのう冬眠を終えて娑婆に戻ったばかりよ! 驚いたか」
 今頃まで寝てる虫などいるか。もっくんはそう思ったが、ハエの
アウトローな面構えを見ていると、そんなロクでなしも実在しそう
に思えてゾッとした。
 下から歓声が飛ぶ。いつの間にかアリたちが集まり、ああだこう
だと騒いでいた。おまえら実はヒマなんだなと、もっくんは知った。

(――網ももう、駄目だね)
(――若造が、楽してうまく行くわけないね)
(――地道が一番だよね)
 実際はもっくんの方がよほど地道なのである。
「ガキ、覚悟じゃ」
「何だこの〜!」

 戦いの結末は、誰も見る事は無かった。突然、気まぐれな春の突
風が、どおと吹き抜けたからである。
 アリは必死に地面にしがみついた。ハエは舌打ちしながら、風を
横切って去った。
 もっくんは――空にいた。一番に吹き飛ばされていた。彼は常に
先駆者である。望もうが望むまいが。
(ま、いいか)
 もっくんは糸を延ばして風に乗せた。
 空はやたらと青かった。






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