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第14回1000字小説バトル
Entry37

角のジミーがいなくなった

作者 : Momo
Website : http://www.geocities.co.jp/Bookend/2767
文字数 : 1000
 ジミーがいつも立っていた角で、見知らぬ男が小銭をせびってい
た。

 ジミーというのは、年の頃60前後の、威勢のいい、話好きな「ス
トリート・バム」である。
 町の至る所に存在して、誰彼かまわず金をせびる「バム」達を煙
たがる人は多い。
 だが、ジミーは他のバム達と一線も二線も画した存在だった。

 まず、他のバムのように、哀れさを誘う作戦には出ない。
 髪はいつも短く刈られ、冬場ともなれば「金はやるつもりがないの
だ」と大学の「せんせい」が買ってくれたのだというコートを着込ん
で得意げにしていた。
 「バム」特有の、「小銭を分けて頂けませんか?」というセリフも、
彼の口からは出ない。
 角に立って、信号待ちをしている通行人に話し掛けるのだ。

「よぉ、話し聞いてけよ。お前、メキシコ人か? ん?日本人か。コン
ニチワだろう。知ってるぞ、日本人は気前がいいんだ。金回りがいい
からな。いや、別に金をくれって言ってるんじゃないぞ。ただ、俺と
話して、飽きたら小銭をくれたらいい。そしたら話を止めて行かせて
やるから」

 ジミーは政治の話をするのが好きだった。
 ちゃんとした教育を受けたのではないから、話のほとんどは受け売
りで、ところどころでは辻褄も合わず、最後はいつも「政府が悪い」
となるのが決まりだった。
 それでも、ジミーが演説をぶつのに耳を傾けるのはなかなか面白く、
大学の政治科学部の連中とたまに行っては野次を飛ばしたり、あれこ
れと説明してやったりしていた。

「まともな仕事を見つける気はないの?」
と聞いてみたことがある。
 ジミーは鼻で笑って、
「こんな楽しい生活があるのに、どこかの机に縛りつけられて一日中
空も見上げずに仕事だなんて、誰がやりたいもんか」
と答えた。それから、忘れてなるものか、と言いたげに
「政府は生活保障に寛容だからな、俺みたいのが寄生虫よろしくくっ
ついてけるんだ。馬鹿だよなぁ」
と付け加えていた。

 そのジミーが縄張りを離れて、もう三ヶ月になる。
 今までも、何処か別の場所に立ってみたことは何度もあるらしい。
 その度に十何年も居座っている場所だから、と帰ってきていたのだ
が、今回は帰ってこないような予感がした。
 周りの人間も一様にそう感じているらしい。

 誰も口に出してそう言いこそしないが、死んだのではないか、とみ
んな思っていた。

 それでも、ジミーのいた角に立って信号を待っていると、
「よぉ、話し聞いてけよ」
と、後ろから声がかかりそうな気がするのだけれど。






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