インディーズバトルマガジン QBOOKS

第14回1000字小説バトル
Entry38

パゲ山考

作者 : 俊
Website :
文字数 : 1000
「なんで?」

 人に三回以上そう聞くのは、失礼に当たるらしい。どこで知った
か、判然としない。パゲ山が言っていたかもしれない。でも「学研」
で読んだ気もする。はっきりとしない。
 
 なんで「なんで?」を繰り返してはいけないのか。それは相手が
必ず答えきれなくなるからだろう。なんでそうなるのか。知識は有
限で、「なんで?」は答を無限に弾き返し続けるからだろう。しか
しなんでそんな仕組みになっているのか。

「うるしゃい!」

 パゲ山ならそう叫ぶだろう。なにせつるつるしていたから。四季
折々の日差しを受け、曇れば曇ったなりに、雨降りの日は室内灯と
同じ色調で、彼の頭は常に輝いていた。つるつる。ぴかぴか。

「うるしゃい!」
 
 パゲ山は夏休み明けに、産休の森田の代わりで来た。若ハゲ、サ
行の発音がおかしい、ということですぐに僕を含めたくそガキ共の
標的になった。ガキ共は何かにつけては

「なんで〜?」
「しョれは、XXXだからでしゅ」
「なんで『XXX』なの〜?」
「しゅ静かになさい」
「なんでなんで〜?」
「うるしゃい!」

 いつもそうなった。ガキ共は彼を怒らせて楽しんだが、彼はイヤ
だったのか、日増しに子供の目からもおかしな言動が増えた。それ
でも彼のパゲ頭は、律儀に光り続けていた。ぴかぴか。

 この光は?これは冬の光だ。くすんだ、いつもと同じ反射光。光
源へ放たれる言葉も同じ。僕は教室の引き戸の所に「げんき学級」
の奴が一人、いつの間にかいるのに気づいた。そいつもへらへら笑
いながら「なんでー?なんでー?」と叫んでいた。概ね、いつもと
同じ。しかし「げんき学級」にパゲ山は目を向けると、震え始めた。

「なんでー?」
「・・・フザケロ」
「なんでー?」
「なんで俺が貴様らみたいな・・・ふざけろ。
ふざけろよてめえら」

 完璧な発音だった。「げんき学級」はなぜか彼の怒りが自分に向
けられているのに気付き、黙った。いや、もう皆黙っていた。鈍い
輝きが「げんき学級」へ歩み寄るのを、惚けたように見ていた。

「すすみません」
「ふざけろ」
「あの」
「ふざけろや」
「ぼくあの、ごめ」
「ふざけろ」

 僕はそれを聞いて、自分がしていたことの意味が分かった気がし
た。なるほど。そしてぼくは悲鳴をあげた。
「へひーー」
 あほみたいな響きだった。

 体育の増田がそれを聞いてやってきて、パゲ山を連れていった。
それで終わりだった。刺のような物を僕の心に残して、彼はそれ以
来学校から消えた。妙なことに、僕は彼の顔を覚えていない。
なんで?

パゲだから、かな。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。