第14回1000字小説バトル
Entry7
朝の4時ごろ。急に目が覚めた。ぼーっとした中で、なんとなく 昔のことを思い出していた。 それは少し太陽がぎらつく初夏の朝のことだった。僕はいつもど おり隆をさそって、小学校へと向かっていた。初めは小学生らしく 愉快なことを言いあっていたが、彼は急に黙り込むと思い出したよ うに喋り出した。 「そういえばさ、ゴキブリってカッコよくない?」 と、隆は自信ありげにこう言った。僕は意味が判らなかった。どう してと訊ねたら、彼は僕から視線をそらして前を真っ直ぐに見つめ ながら語った。 「タフだし、どこでも生きていけるしね。外見もサイコー。鈍く黒 光りするボディに、2本の触角。六本の足はスピーディに動くこと もできれば、垂直な壁にさえも上ることができる。しかも、僕達に も持ってない羽をもってて、空を飛ぶことだってできるんだ。そう さ。あいつは虫の忍者なんだ」 「―そうかなぁ」 僕は思わず訝しげに考え込んでしまった。何度過去をほじくり返 しても、あれがそんなにホメられる奴だとは思えなかった。と言う か本能的に気持ち悪いとさえ感じている。こそこそ隅を這いまわっ てはご飯の残りをあさり、放っておくといつのまにか「プチゴキ」 まで歩き廻ってたりする始末だ。お母さんなんかは、見つけるとす ぐにスリッパを持って追いかけ廻して、必殺の一撃を繰り出すと満 足げにニタリと笑って素早く死体を片付ける。うーん、いつも優し いうちのお母さんをあそこまで変えさせるんだから、良い奴ではな いと思うんだけどなあ。やっぱり隆は変な奴だ。 僕が立ち止まって考え込んでいると、隆がひょいと僕の顔を覗き こんできた。不思議そうにこっちを覗うその顔を見て、僕は我に返 った。 (いいや、学校へ行こう。) そう思うと、 「うん、僕もカッコイイと思うよ」 と、にんまりとした作り笑いで言った。隆もそれに気を良くしたの か、満面の笑みを浮かべて「だろー」とまた得意げに言って先に歩 いて行った。そして僕達は学校へ行った。 あの頃を振り返ってみると、改めて「隆はカッコよかったな」と しみじみと感じる。となりで大いびきをかいて寝るとどのような女 房と、鏡の向こうで少し禿げ上がった自分の頭を交互に眺めても、 何で自分がこんな風になったのか判らない。あのとき、作り笑いを してなければ少しは変わったのかな。という思いが少し心を掠めた けど…。 (いいや。) 僕はまた布団をかぶり直すと、すぐ眠りについた。
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