第15回1000字小説バトル
Entry10
カタツムリやナメクジなどの腹足動物で例えられるような人間。 例えば、カタツムリのようにジメジメしていて、いつも内に閉じこ もっているようなヤツ。ナメクジのように暗いところを好んで、糸 を引くように足を引き摺りながら歩くようなヤツ。 寄生虫に脳を侵され、誰だかよく分からなくなったヤツ。 私の友人に一人、変なヤツがいる。立体を認識する能力を失い、 更には物体の大小感覚まで麻痺してしまった少年だ。原因は新種の ウイルスらしいが、感染する可能はないらしいので、私は時々彼の 見舞いに行く。見舞いというよりも、面白いものを見に行くと言っ たほうがいいのかもしれない。 彼は病院内の公園で地べたに尻をつき、ベンチによりかかって何 かをしていた。肩越しに覗き込んでみると、小さな砂粒をピラミッ ド状に積み上げようとしているところだった。 「こんにちは。元気?」 声を掛けると、彼は振り向かずに「やぁ」と答えた。 「上手くいきそう?」 「全然」 それはそうだろう。立体を認識できないということは遠近感がな いのと同じである。しかも、彼にとって同じ形のもの、つまり大き さは異なれど相似形のものはすべて同じ大きさに見えてしまう。彼 の見ている砂粒は、エジプトのピラミッドに使われている巨石と同 じ大きさなのかもしれないのだ。もちろん、その認識障害は視覚か ら送られる情報だけではなく触覚からの情報も狂わせているらしく、 そういう点では重量感覚さえも役に立たないのだ。 彼は砂粒を摘み上げるために歯を食いしばって頬を震わせ全身に 汗をかく。それでも目だけは冷静さを失わず、細かな砂粒をしっか りと捉えている。 「そんなことして何が楽しいの?」 私も側にしゃがみ込み、ふうっと彼のピラミッドに息を吹きかけ た。全長五ミリほどのピラミッドは見事に吹き飛んだ。 「全然。でもなんとなく、僕はこうしていたいんだ」 彼は再び砂を集めてきて、ベンチの上で一粒一粒積み上げはじめ た。 私は自宅の庭にあったアリの巣を崩して、若い働きアリを十匹ほ ど集めてきた。ティッシュペーパーを広げて、その上にアリたちを 整列させる。そして、砂糖をティッシュペーパーの端に盛ってやる と、アリたちは私の教えた通りに砂糖の粒を使って小さなピラミッ ドを築きはじめた。 しばらくは頬杖をついて眺めていたが、アリたちの動きが単調な のに飽きてしまったので、ティッシュペーパーごと丸めてくずかご に放り込んだ。
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