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第15回1000字小説バトル
Entry14

BeBlue

作者 : うめぼし
Website : http://www.alpha-net.ne.jp/users2/opus1977/toppage.htm
文字数 : 1000
  美術部、演劇部、ブラスバンド部。
 一三歳、異性を意識し始める頃。自分の心情や身体の変化にとま
どい、こぞってそのことをひた隠しにするあまり、これらの部活は
男子生徒には敬遠されがちだった。事実、佐和子が部長を勤める美
術部に男子部員が入部したのは実に十数年ぶりの事らしい。
 相原幹也。少女漫画部に変化しつつある美術部に突如現れた彼は、
担任の先生にとって救世主のような存在に違いない。
 彼の描くブルーはとりわけ定評があった
 まるで空を絵筆でぬぐい取ったような、誰も真似できない鮮やか
なブルー。彼が十七世紀オランダに生まれていたら、フェルメール
ですら顔を青く染めるだろう。
 彼の存在は部に大きな変化をもたらした。皆、彼の描く水や風の
絵に徐々に魅了され、根っからの漫画派を除き、今秋の文化祭に出
展する作品を漫画から絵画に変更し、精を燃やした。共同出展予定
のオブジェも『四コマの塔』から、担当教官がかねてから提案して
いた『大地のカルテット』に急遽変更した。

「相原君、どうしたらそんな色が出るの?」
 一度だけそう彼に聞いたことがある。
―絵の具の中にいろいろな青い物を混ぜているんですよ。たとえば、
激しさを出したいときはガスの炎にくぐらせたり、わびしさを出し
たいときはタバコの煙をくぐらせて……
 私が真剣に耳を貸していると、彼は突然吹き出した。恥ずかしさ
と怒りで耳の先まで真っ赤になった私の顔を見て、さらにクスクス
と笑い出す。
―でもね、青い物を混ぜてるっていうのは本当ですよ。

 放課後の校庭の隅、いつものように数人の男子生徒に囲まれ殴打
される彼を、私はいつものように最上階の教室の窓からただ黙って
見つめていた。助けようとは思わなかった。それはきっと私自身が
彼の描くブルーに誰よりも魅了され、そのブルーを描く彼に激しい
嫉妬感を抱いていたからだと思う。

 赤、緑、黄、そして青。四つの原色のみで彩られたオブジェが展
示場の中央に飾られたとき、『階段から誤って転げ落ちた』青の功
労者は保健室のベッドにいた。
「馬鹿だよね」
 枕元から囁きかける私の言葉に、はにかんだ笑みを返すと、彼は
窓の外にかかる六色の虹を見つめて呟いた。
「虹から盗んじゃったから、きっと罰を受けたんですよ」と。
「ほんと、馬鹿だよね……」
 もう一度、誰ともなく呟くと、私は彼のブルーを優しく抱きすく
めた。
 
 彼にすら描くことのできないブルーが、私の頬をつたった。






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