第15回1000字小説バトル
Entry16
その日は金曜日だった。夜、学校から直接貴子の家へ向かった。 貴子は私の勤める高校の生徒で、今私が彼女の担任をしている。 彼女は母が亡くなってからは父と二人きりで、このマンションの8 階に住んでいる。今日は彼女の父親が出張で留守だと言うので、私 は夕食に誘われたのだ。 背広姿の私が顔を見せると、「先生、来てくださって嬉しいわ」 と彼女は素直に喜んだ。彼女の笑顔を見ているだけで私は幸せな気 分になれた。貴子が作った料理を食べたが、どれも非常においしか った。毎日父親のためにこうした料理を作るのだそうだ。 「先生、一緒にお風呂に入って」と、しばらくの雑談の後貴子は 言った。私も全く異存はないので、すぐに「いいよ」と言って脱衣 所で服を脱ぎ始めた。貴子も遅れて脱衣所で服を脱ぎ始めた。そし て二人で風呂場に入ったが、そこは案外広かった。「先生、身体洗 って」と頼まれたので、「よしっ」と言いながら、私は彼女の身体 を洗いはじめた。そして彼女の乳房をゆっくりと洗っていたところ、 突然脱衣所から声が聞こえた。「貴子、いるのか?」。「パパだわ !」貴子の顔色が変わる。「誰だ、そこにいるのは!」と彼女の父 親の野太い声。 そして勢いよく扉が開けられ、体格が良く頑丈そうな貴子の父親 に手を掴まれる。私と貴子は裸のままリビングまで無理やり引っ張 っていかれた。「うちの娘に何するつもりだ」と彼女の父親がつぶ やいたその時、私は彼の手から逃げようとした。すると彼はあっと いう間に私の上に乗り、私は全く身動きできなくなった。柔道三段 といった感じで、全くかなわない。貴子は目に涙を浮かべて、「パ パ、お願い、離してあげて」と言っていたが、突然彼女の父親は私 と貴子の手を再び掴むと、窓を開けて、私たちをベランダへ押しや った。私たちはベランダで折り重なって倒れ、すぐに窓が閉められ た。 外は雨が降っていた。貴子は少し寒がっていたので、ベランダの 棚に置いてあった青いビニールシートを持ってきて、二人で裸のま まそれにくるまった。あったかい、と彼女は言った。私は強く強く 彼女を抱きしめた。……。 明け方に目が覚めた。雨はやんでいて、向こう側の空が明るんで いた。ねえ、と声をかけると貴子はすぐに目を覚ました。ほら、向 こうの空、見てごらん。あら、きれいね…。貴子はしばらくそれを まばたきもせずに見つめていた。そしてさりげない笑顔でこう言っ た。「パパもきっと許してくれるわ」。
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