インディーズバトルマガジン QBOOKS

第15回1000字小説バトル
Entry19

うず目

作者 : 川島ケイ
Website : http://www4.plala.or.jp/riverland/
文字数 : 1000
 私に見えるものがうず目には見えていなかったのかもしれないし、
私には見えないものがうず目には見えていたのかもしれない。本当
のところは、彼にしか分からないけれど。
「その青いワンピース、なんか、似合ってるね」
 ちょっと照れたような彼の言葉に、黄色のワンピースを着た私は、
小さな声でありがとうと言った。彼はちょっとはにかんで、そのう
ずまきのような目をゆがませた。それは、目というよりも皺に近い。
 足元まで届きそうなぐらいに波が打ち寄せて、砂や貝を連れて帰
る。そのささやかな音を聞いているとき、彼のうずまきはちょっと
だけ伸びたように見える。

 彼の目がいったいいつからうずまきになったのか、私には分から
なかったけれど、私が彼と出会ったときには、彼の目はもううずを
巻いていた。彼の着ていたシャツは白と黒のボーダーで、彼の連れ
ていたネコの尻尾もすーっと伸びていたけれど、彼の目だけはきれ
いにうずまいていて、それはとても奇妙で、ちょっとだけ、神秘的
だった。

 うず目が自分の目についてどう思っているのか、聞いたことはな
かった。彼にとって、目がうずをまいているのはごくごく自然のこ
とであり、気にもしていない様子だった。何かが見えていても何も
見えていなくても、それは彼の目であって、豚の尻尾なんかでは決
してなかった。

 うず目は本を読むのが好きだった。読むスピードはとても遅くて、
一冊の本を読むのに少なくとも4ヶ月はかかった。けれど彼は、一
冊の本から信じられないぐらいたくさんのことを学んだ。彼は『赤
毛のアン』を読んで喋ることについてたいていのことは分かったと
言った。そして『少年探偵団』を読んで勇気と音楽についてはかな
り詳しくなったと言った。

 いつだって、うず目は穏やかな顔をしている。尻尾の伸びたネコ
がいなくなったとき、彼はかすかに泣いていたけれど、そこには何
の悲しみも見当たらなかった。きれいだ、と思った。うずまきから
ぎゅっと搾り出されるように流れる彼の涙は、心の奥からやっとこ
さ這い出てきたようで、とても貴重で、美しいものに思えた。

 波が足もとをそっと撫で、砂をさらっていく。柔らかな感触が心
地よかった。
「ねえ」
 私が声をかけると、うず目は潮風でべとついた頬をぬぐいながら
振り向いて、いつものようにそっと、私を見つめた。そして私もい
つものように、彼からそっと目をそらす。彼の目を見つめていると、
目が回ってしまうから。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。