第15回1000字小説バトル
Entry23
ススキが広がる土手に太陽が落ちてきました。 黄金の草原に落ちる真っ赤な夕暮れが、私に秋という季節を感じさ せました。 先生と私はその土手をちょうど夕暮れに向かって歩いていました。 先生とは家が近所で、よく帰り道が一緒になることがあったのです。 先生は、今日あった事を私に楽しそうに話していました。 先生の楽しそうな顔を見ると、こっちまでなんだか幸せな気分にな りました。 ふと先生は、私達の前に落ちている小さな石ころを見つけました。 先生はしゃがみ込んでそれを不思議そうな顔で眺めていました。 先生が私に、「この石ころは何故ここに転がっているのか?」と尋 ねました。 「ここに転がっていたいからだ」と、私は答えてやりました。 すると先生はその石を遠くに投げてしまいました。 「どうしてそんなことするんだい?」、私は先生に聞きました。 「だって、ずっとそこにいても面白くないもん。」 きっと、先生には見えているのです、私が見過ごしてしまっている ものが… そして、聞こえているのです、私が忘れてしまったあのメロディが… 「そうか…面白くないか…」私が誰にでもなくつぶやいていると、 先生は私の手をそっとにぎってくれました。先生の手はとても小さ く、何よりも暖かく感じました。 私は自分が今、立ち止まっていることに気付きました。そして、そ れでいいと思っていました。今の生活を壊してまで得るものなんて 何一つ無いと思っていました。 私も石ころだったのかもしれません。ただじっと時が過ぎるのを待 ち、時が満ちてその命を終える。誰かに蹴ってもらわないと動けな い…そんな弱い人間だったのかもしれません。そんな私に先生は 「面白くないでしょ?」と言っているのでしょう。 確かに立ち止まることも時には大切かもしれません。しかし、私は 立ち止まって考えている振りをしているにすぎなかったのです。 誰かに蹴ってもらわないと動けない石ころ。しかし、私は自らの意 思で動くことのできる身体を持っているのです。 私はなんだかとても大切なものを思い出せたようです。 私にとって先生は、やはり先生だったのです。 石ころは旅立ちました。先生の想いと共に… 私も旅立とうと思いました。今の自分から… 私は先生にバイバイしました。 先生は振り返りもせず、手に持った棒っきれで草を倒し倒し走って いきました。 現在(いま)を壊したい…大切なことです。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。