第15回1000字小説バトル
Entry3
トッドがトイレに行くと、ちょうどシモンが、小便器に向かって いた。男性用トイレのドアを開けると、通路を挟んで左側には大便 器の個室が三つ、右側に小便器が四つ並んでいる。シモンは奥から 二番目の小便器に向かってい、トッドは一つ空けて、右端の小便器 の前に立った。 「やっぱりな」 シモンはトッドのほうを向いてにやりとした。 「何がやっぱりだよ」 トッドが訊き返すと、 「いや、他が空いているのに隣に来る人は、やっぱり少ないらしい ね」 「そりゃあそうだろう」 「でも、こないだなんかさ、おれはやっぱり奥から二番目を使った んだわ」 と、シモンは話を継いだ。「そこはここみたいに狭くなくて、ずら っと二十個ぐらい便器が並んでるんだけどさ、後から入ってきた男 が一番奥まで来たんだ。他の便器も全部空いてるのに、わざわざお れの隣に来たんだぜ」 「端が好きなんだろ」 「端が好きなやつは、ふつう人のそばがいやなんだよ」 たしかに端に行くのは、見知らぬ他人とくっつくのはいやだ、と いう心理が働くからだろう。 「それに一番奥の便器は危ないっていうじゃない」 「どうして」 「どうしてって、おまえそれでも刑事かよ。薄暗い隅は襲われやす いからだよ。襲われたときに逃げ場がないからだよ。刑事じゃなく てもみんな知ってるぜ」 そのとおりなのかもしれない。トッドは思った。トッドがそうし たことに無頓着なのは、多分、腕っぷしにそれなりの覚えがあるか らだ。たいして大きいわけでもないが、余程の大男が相手でも、負 けるなどとは考えない。その点、どちらかといえば小柄で、格闘に なれば真っ向から勝負というよりは、うまくかわすタイプであるシ モンとは、注意の向き方も違うのだろう。 「だからおれはいつも一番奥じゃなくて、二番目を使うんだ」 洗面器に向かいながらシモンが言った。一番奥と二番目。襲いや すさという点にどれほどの違いがあるものか、トッドにはまだ疑問 だった。 トッドも小便器を離れ、シモンと並んで洗面器の蛇口をひねった が、それを待っていたかのように、 「なあ、トッド、ここの便器って、何型というのかな」 シモンがまじめな顔つきで言った。 「何だよ」 「いやちょっと娘に訊かれたんだけどさ、でも便器って、四角いの もあれば丸いのもあるだろ」 「そうだな。下まで細長いのもある」 「漏斗みたいなのもあるしね」 「あそこのは、しずく型だったかな」 二人の廊下を歩きながらの談義は続いた。
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