第15回1000字小説バトル
Entry5
火星の周回軌道上にレフェリーという人口衛星がある。この衛星は、 火星に出入りする宇宙船の入出管理や、他の衛星や流星などの危険 防止の探査が、主な役目だ。 結構大変そうな作業に聞こえるが、実はそう難しく無い。レフェリ ーのコンピューターと、作業員であるアンドロイドが総てをやって くれるので、衛星に必要な人手はたった独りなのだ。 「レンコ大尉。お勤め御苦労様です。これより引き継ぎの任にあた るケン・ヤスナガ少尉であります」 レフェリーでの滞在期間は一年。その間、外部との接触は殆ど無く、 一人きりで過ごさねばならない。だから、この任務に就く人間の殆 どは、軍での何かしら失態をやった人間と相場が決まっている。 もちろん俺も例外では無い。 レンコ大尉は、軍の暴れ者と評判の人間だったが、敬礼をすると機 械的な物言いで淡々と話した。 「ヤスナガ少尉。引き継ぎの任、御苦労。一週間よろしく頼む」 大尉は、印象と違い物静かな地味な人間だった。この一週間の引き 継ぎ業務で、彼の口から無駄話と言う物を聞いた事が無い。逆に、 俺はと言うと、おしゃべりが過ぎての失態での左遷。話す事が大好 きで、話が出来れば、人間だろうが機械だろうが構わない。大尉が 聞いていようが、いまいが、俺にとってはどうでも良かった。 だから、この退屈で窮屈な人工衛星での生活を一年間続ける事に、 そう悲観的では無かった。 その大尉は、最後だけ俺に向かって無駄な口を開いた。 「忠告する。おしゃべりもいいが、機械と喋るのは止めておけ」 最後の引き継ぎが終了する前に、彼は俺にそう言い残した。忠告と 来た。単なる嫌味。大尉は、噂と違って小心者だったらしい。 俺は少し苦笑いをすると、オペレーションルームへ行き、そこで働 くアンドロイドに話し掛けた。 「君はなんて名前だ」 「はい少尉。β三号と呼ばれています」 「そうか、β三号。君は何が話せる?」 「はい、少尉の望む会話を」 「では、そうだな……」 俺はアンドロイドに向かって話しはじめた。アンドロイドは機械的 に淡々とそれに対応する。 その時、奇妙な感じを受けた。以前、どこかで、こんな話をしたよ うな…… 地球軍情報部での対話 「レフェリーに、また問題児を送りこんだって?」 「そうさ、あそこは人格形成をするにはもってこいらしい。なんせ、 帰ってきた奴は皆、アンドロイドのように物静かで、淡々と任務に 従う優等生になるんだからな」 情報部の人事担当者は、高らかに笑った。
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