第15回1000字小説バトル
Entry7
日曜日。 することもなく電車に乗ってみる。 本当は予備校で模試があるんだけど……ほら、そういう時ってあ るだろう? やらなきゃならない事とはあるけれど、それを投げ出 してみたいとき。でも、投げ出したけれど、特にしたい事もなくっ て……ちょうど今の僕がそんな状態。 だから、電車。 ぐるぐると回る……時計の針のように。 日曜の昼だというのに電車の中はあんがい空いている。おなじ車 両には僕をあわせても六人ほどしかいない。 昼時だからだろうか。 でも、そんな事は実はどうだっていいことだ。 他にも人はいるけれど、ここには僕一人。 奇妙な安心感とすこしの寂しさ。 窓際の席に座って、まぶしい陽光に目を細めてみる。 あたたかさが満ちていた。そこかしこに。 いつもと変わらぬ同じ街並みなのに、窓の外を流れる景色もどこ かなごやかだ。 そして、陽気はガラス窓を越えて車内まで……でも、僕の心にま で届くのは少し。ほんの残りカス程度。 ウォークマンのイヤホンを耳につける。再生ボタンを押すと、ピ ッという電子音と共に僕は外部の音から隔絶される。 ちょっと暗めのロックンロールナンバー。 お気に入りの洋楽バンド。僕が生まれた頃にはもう解散していた らしい。 僕がこのバンドを好きな事を知ってる友だちはいない。わざわざ カラオケで歌って場をシラケさせたりもしない。 ドラマとファッションとJ−POPSの話題。 公約数でつきあう友人たち。 ネットで同じ趣味の人間を見つけると少し嬉しい。でも、おたが い顔も名前も知らない。知らない事が良いことなのかどうなのかは わからない。けど、彼らになら友だちには決して言えない毒のある 意見を吐いたりもできる。 仮面舞踏会の知人たち。ちょっとした願望の充足。 どちらも僕であって、僕じゃあない。 駅を通過。 停車していた電車を追い抜いてゆく。 短針を追い越して、秒針に追い越されて。 でも、このレースに僕は関係ない。それが僕を安心させる。満足 させる。 その奇妙な安らぎと、ぼんやりとした春の光のあたたかさに招か れるように、僕は目を閉じる。目蓋ごしの陽光に視界が赤く染まる。 電車の心地よい揺れに身をゆだねると、ヴォーカリストの叫びが フェードアウトするように徐々に遠のいてゆき、僕の意識は春のや さしさに包まれてゆく。 やがて、虚ろな微睡みの中で僕は忘却の世界へ……。 ほら、世界が……。 …………。 ……。
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