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第16回1000字小説バトル
Entry1

SLOW MOTION

作者 : リュウタ
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文字数 : 996
 どうやら生きているようだ。
 直哉は半身を起こし、ヘルメットを脱ぎ捨てた。教会の鐘のよう
な音を上げながら転がるヘルメット。その先には砕け散ったバイク。
 ハイウェイのど真ん中で、直哉は蒼白く輝く月を見上げた。睨ん
だ。
「てめぇの仕業か?」
 嘘だろ? 月が頬を染めた。

 不思議な夜だった。四六時中渋滞しているハイウェイに、一台の
クルマも見当たらない。眠らない街からネオンが消えている。高層
ビルは死んだように聳え立っていた。
 街から人が消えてしまったのだろうか?
「…夢?」
 アユミは目を擦った。ひとりでドライブを楽しんでいるうちに、
眠ってしまったのかもしれない。しかし何度瞬きをしても、映像は
モノクロームのままだった。月だけが赤い色を放ち、キスできそう
なくらい近くにあった。

 ハイウェイに寝そべったまま、直哉はタバコを二本吸った。相変
わらずクルマは一台も走っていない。おかげで、200キロ近いス
ピードで転倒した自分が「生きている」という実感が湧かない。手
足も動く。痛みもない。タバコだって吸える。
 そのとき、銀色の眩い光が直哉を包み込んだ。
「UFO!」
 本当にそう見えた。あのでかい月の方角からやって来るのだ。そ
れとも死神? 自慢の皮ジャンが裂けていることに気付いた。左腕
のドクロのタトゥーが、ニンマリと笑っていやがる。

「事故?」
 愛車のハイビームが原形を留めないバイクを捉えた。粉々になっ
た部品が道路いっぱいに散らばっている。そして、横たわるライダ
ー。
 胸が激しく早鐘を打つのを感じながら、アユミはクルマを飛び出
した。

 それは目の前で止まった。直哉は逆光に目を細めながら、近寄る
シルエットを呆然と見つめた。
「天使だったのか…」

「大丈夫?」
 信じられない。これだけの事故で、ライダーは一滴の血も流して
いなかった。タバコまで咥えている。
「ああ…」
 天使の…いや目の前の女の美しさに、直哉は思わず息を呑んだ。
どうやら本当に生きているようだ。
「とにかく病院へ行きましょう。立てる?」
 アユミは捲くし立てた。
「いや、自分でも信じられないが、傷ひとつないみたいなんだ」
 立ち上がり、直哉は完璧なウインクを返した。
「でも…」
 不安に支配されていたアユミの胸は、一瞬にしてトキメキに焦が
された。痛いくらいに。視界はモノクロームのまま。
「これは夢なの…」
「いつまでもみていよう」
 すっかり照れちまった月が、雲に姿を隠した。






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