第16回1000字小説バトル
Entry11
清流王が伯望山にて兆季軍三万を破り、穎胤城へ入城したときの 事である。 大通りを城へと向かう清流王軍の流れの前に、突然一人の女が飛 びだし、兵たちの目の前で清流王の悪口をわめきちらした。 もちろん、兵たちによって、即座に女は取り押さえられた。 しかし、女は清流王への罵りをやめようとはせず、それどころか、 先ほど以上の大声で罵詈雑言をまきちらす。 清流王みずからの「民へ暴力をふるいし者、略奪をせし者は斬首 に処す」との厳命もあって、無理矢理に黙らせるわけにもいかず、 兵たちは途方に暮れた。 次第に女の周囲は人だかりとなり、ついには行軍が滞りだした。 騒ぎを聞きつけた清流王は、女を自分の許へ呼ぶよう命じた。 女が兵に連れられてくると、馬上の清流王は見下ろすようにして 尋ねた。 「女よ、我に何か言いたい事があるのだろう。いうてみよ」 女は歯を食いしばり清流王を睨みあげた。その双眸には、憎んで も憎みたりぬといわんばかりの怨念が宿されていた。 「おまえに……殺された。たくさんの者が。私の夫も、息子も、み な殺された。返せ、みなを返せ、私の家族を返せ!」 清流王は微かに眉を動かしたが、その顔には、なんの表情も浮か ばない。 「戦いとはそういったものだ、だが、我とて殺したくて殺しておる のではない。戦乱に終着へと導くために、民のために戦っているの だ」 「……おまえたち支配者の言う事はいつも同じだ。民のため、平和 のため。だが、おまえたちはいつも私たちから奪うだけだ。私たち に何を与えてくれた? 何を施してくれたというのだ」 清流王に食ってかからんばかりの女の肩を、二人の兵士がつかん で押さえつける。 「言い訳をしようとは思わぬ。だが、誰かがなさねばならんのだ。 そして、それは我でありたい。いや、我でなければならんのだ」 「その我儘で、どれほどの血を流せば気がすむのか!」 そして、女が清流王めがけて唾を吐きかけた。 清流王はそれを避けようともせず、唾で頬を濡らした。そして、 しばらく女を見据えていたが、やがて強い口調で言った。 「誓おうぞ、女。民たちの流した血の量にふさわしき安寧を、我が この地にもたらすことを」 そして、朗々と響きわたる声で、 「女の首を刎ねよ」 そう命じ、馬首をひるがえした。 穎胤城入城から十五年後――。 清流王は全土を掌握し、真王朝を樹立した。そして、その統治は 二百年にわたり大陸に安定をもたらす事になる。
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