第16回1000字小説バトル
Entry12
真新しいノートが好きだ。ノートじゃなくても、サラサラの紙、 取分け無地か横罫が良い。ルーズリーフは駄目、その規則的な穴か らは、絶対に愉快に成りそうにないから。大体三日に一回、一週間 に三冊位はノートかレポート用紙を買う。偶にコピー紙や、画用紙、 漫画を描く原稿用紙とかを気紛れで買うこともある。でも、それら は少しだけ高価だから、月末に二、三度買う位。 いつも同じ文具屋で買っていたら、段々変な眼で見られるように もなったから、最近では別々な店を選ぶ。今日は、夕陽が僅かに線 路に遮られて射込む、駅前の緑の看板で御馴染のコンビニエンスス トアで。エメラルド色の表紙、C罫ノート。 勉強机から見上げて眼に入る簡単な書棚には、きっとパパとママ は辞書や教科書を入れて欲しかったろうけれど、綺麗なノートがず っとずっと並ぶ。買って何を書く訳でもないし、棄てもしないから、 もう、一杯。その一番右にエメラルドを挿込む。隣は一昨日買った 金色と銀色でキラキラした折り紙、二十枚入り。 改めて一番左に入っている、つまり始めて買ったであろう、エメ ラルドと同じブランドのピンク、を取出し、開き、ブルーが出放し の蛍光三色ボールペンを手に取る。ゆっくりと書始めた。英語の “5W1H”とかで、言う所のワット、ウィッチ、ウェア、ハウは 既に整理出来た。後は、ウェンとワイ。 WHAT WHITH WHERE HAW WHEN WHI ああ、もう綴りなんて全部忘れてしまった。そう、つまり、買い 始めたのはいつ頃だろう。そしてなぜ買うのだろう。それは至極さ さやかな疑問だけれど、例えば、今まで二十年にも満たない、短い 人生の全てではある。 ピンクのノートに“5W1H”を書続けて、終りまで書切って、 裏表紙に顔を埋めて、この先再び紙は買わないことを予期し、願っ た。それから、ピンクのノートを棄てた。 要するに、この罫線の隙間に全てを押込みたかっただけなんだ。
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