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第16回1000字小説バトル
Entry17

アスファルトの匂い

作者 : AYABE
Website :
文字数 : 810
 アスファルトの焼ける匂いもきつくなってきた夕暮れ。どうやら
東京も本格的に夏になってしまったらしいと思いながら全開のベラ
ンダから入ってくる生温い風に忘れ物をした小学生のように切ない
寂しい顔をしていた。じっとりと汗ばんだ体を内輪で仰いでみた。
 ネコが一匹。今日もうちのベランダで昼寝をしている。あくびも
背伸びもしないでただただ茹だる夏の暑さに耐えているようだった。
体が黒い毛で覆われているのはあまりに酷だろうと思って自分の皮
膚を見てみた。白かった。

 昨日此の小さなワンルームの部屋から彼が出ていった。思い出も
匂いも温もりも何もかもアタシの体ごと此処に残して
 「守るべき人がいます。ごめんなさい。
  貴方は強いから大丈夫。ごめんなさい。」
なぐり書きしたレシートの裏は面白いから壁に張り付けてみた。残
酷な生け贄みたいで最高のインテリアに見えた。
 太陽が出ている時間。アタシはひたすら泣いた。それが現実でな
いように願いながら瞳が覚めると隣には裸でおはようと笑う彼がい
ると信じてた。けれど電話のベルも家のインターフォンも鳴らない
まま月が昇って太陽は気付くと隣のマンションに食われて消えてい
た。不思議な事に突然涙はピタリと止まりアタシはとりあえず窓を
開けた事を思い出した。夜には時間を伸ばす魔法があるらしい。悲
しいはずの今夜は何処までも続くようでなのに急に彼の事はどうで
もよくなってしまったらしい。夜の闇はママの子宮に似てるなと思
た。

 次に太陽を仰いだらアタシは誰と此の部屋で過ごすのだろう。そ
う思って伸びた夜の時間の中でアタシは冷凍庫から苺味のアイキャ
ンデイを出して舐めてみた。鏡に映る厭らしいアタシの舌はまっか
に染まって冷たいなと感じながらアスファルトの焼ける匂いを思い
出そうとした。苺の香りが部屋に漂っていた。






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