第16回1000字小説バトル
Entry19
三時間目の国語の授業は自習になった。ざわざわと少し騒がしい 教室。私は読みかけの小説を読むことにした。それはメランコリッ クな短編小説集で、思春期真っ最中の私には少し重い感じがしたが、 言葉の一つ一つがとても綺麗で、自然と物語の中に引き込まれてい た。 「今朝、弟がね」 隣でした声に私は意識をそがれたが、それが私に掛けられた言葉 でないことがわかると、再び本の中に視線を戻した。 「階段から落ちたの。ううん、下から三段目。凄い音がしたから、 行ってみたら、弟の首がこんなになって。そう、それくらい。ほと んど直角」 それは隣の席に座っている少女の声だった。他の女子と話をして いるらしく、その会話は私の耳にも入り込んできた。首が曲がった 男の子を、私は無意識に想像していた。 「元に戻らなくなって。うん、それ以外は平気だったみたいだけど、 でも、声がちょっとおかしくなってて。テレビアニメの変なキャラ クターみたいな」 私の頭の中で、大好きなアニメキャラが首を曲げて笑った。 「目が縦に並ぶでしょう。バランスも狂っちゃって、うまく歩けな いから、お母さんが病院に連れて行くって。え、ううん。私はその まま学校に来ちゃったから、どうなったか知らないの」 首の曲がった和也、これは私が読んでいる小説の主人公であるが、 私はその和也の首にコルセットをはめてみた。そして、恋人との待 ち合わせ場所に向かわせる。その姿は滑稽以外のなんでもなかった。 「私の弟、昔から体が弱いほうだから、やっぱり心配。それに、あ のまま首が元に戻らなかったら…」 コルセット和也を見た恋人は心配した。ああ、もしこのまま和也 の首が元に戻らなかったら、私はどうしたらいいの? 「でも、人間の首ってあんなに曲がるものなのね。なんか、弟が作 り物のように思えて。ゴムとか粘土で作ってあるから、こんなに曲 がるのかしらってね。でも、案外そうなのかもしれない」 そして、隣の少女の声がやんだ。私は本を閉じ、ちらりと横目で 少女を見た。少女の周囲にはもう誰もおらず、少女は背を丸く縮め て、俯き加減で座っていた。垂れた髪の毛のせいで表情は覗えない。 なんとなく、時間が過ぎた。 ふと、少女が身動きした。少女が首を左右に曲げると、乾ききっ た枯れ枝が折れるような音がした。 「…ぽきぽきだって。どうしてぐにゅぐにゅじゃないのかしら」 少女はポツリと呟いて、だらんと垂れた首を曲げ、私に笑いかけ た。
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