第16回1000字小説バトル
Entry22
やっと完成した。これを飲めば500人力だ。計算上、身体中の 細胞という細胞が、512倍の威力になるはずだ。 私は早速、ピンポン玉大になってしまった薬を、涙を流しながら 飲みこんだ。薬の有効時間は3分。まるでウルトラマン。 しかし、身体に変化はなかった。成功するはずだが…。 まぁ、失敗は失敗として今日はもう寝よう。徹夜だったから気が 付かなかったが、もう昼だ。私は死んだ様に寝入った。 目が覚めると、もうすでに昼だった。テレビを付けた。…が中々 映らない。やっと映ったが声が変だ。異様に低いし、第一映像が動 かない。 これは…、まさか! 私は壁の時計に目をやった。やっぱり時計 は止まっていた。玄関の新聞の日付は昨日だった。いや、…やっぱ り実験は成功したんだ。細胞レベルでの512倍は、全ての動きが 512倍になってしまうという事でもあったんだ。 無償に嬉しくなって。私は外へ飛び出した。外の世界はまるで写 真だった。何も動きが感じられない。 空気がねっとりと身体に絡みついてくるのは、廻りの環境がその ままだからだろう。 3分は3分でも、512倍だとすると、25時間位の超人という 事になる。寝ていたのが20時間としてもまだ5時間分はある。 私は嬉しさのあまり駆け出していた。暑い。見るとシャツもズボ ンもボロボロになって煙さえ出て来た。慌てて払うと来ているもの は殆ど原形を止めていない。空気との摩擦であろうか。これからは 注意する必要がある。 誰に見られるわけじゃないからと、ボロボロの衣服を剥ぎ取り、 私は生まれたままの姿で、街中を歩きまわった。 車に跳ねらそうな老人を歩道に移動し、歩きながらタバコを吸っ ている奴のタバコを消し、犬に追いかけられている猫を犬の上に載 せた。 女子高生のスカートを捲り、レストランのテーブルにあったステ ーキを食べ、銀行から金を取出し、道にバラまいた。 そして、綺麗な女性を強姦してからは、段々つまらなくなってき た。水の上を歩いてもみたが、慣れればどうという事もない。 ぼんやり歩いていた私は、何かに滑って頭を打った。 随分長い時間が経ったのだろうか、気を失っていたようだ。私の 廻りは人で一杯だった。 「…く起きなさい。昼間から素っ裸で何をしてるのかね?」 私を見下ろした警官は、貧弱な私を見て薄笑いを浮かべた。 「何か、か、隠すものを貸して…」 私はぶら下っているものと一緒に、小さくなった。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。