インディーズバトルマガジン QBOOKS

第16回1000字小説バトル
Entry24

宇宙葬

作者 : 有香
Website :
文字数 : 1000
 数世紀前のご先祖様達が宇宙への第一歩を踏み出したとき、母星
ではそりゃもう大変な騒ぎだったらしい。ウチュウジンなんてナン
センスな名前の生物がいるとかいないとか、とにかく夢を見たがっ
たという。

 おめでたいことだぜ。宇宙に夢を見ていたんだとよ。

 小さな機体の中でふわりふわりと回りながらユーロパがそんな話
をしていた。

 お前なあ、昔の話より今の仕事しろよ。

 僕の注意を聞いているのかいないのか。とりあえずユーロパは手
は動かしている。相変わらずぷかぷか泳ぎながら、遠隔装置のコン
トローラを窓の外も見ずに操っている。
 悔しいけれど、こいつのコントロールの技術は天才だ。今もそん
な話をしながら、一通りの作業を終えようとしている。

 ユーロパが、ゴミでも捨てるみたいにしてナントカさん入りの
「カプセル」を切り離した。ゆっくりと離れていく柩に、僕は形だ
け黙祷した。
 柩は、切り離された反動でゆっくりと宇宙船から離れていく。

 と、柩が不意に向きを変えた。まるで意志を持っているかのよう
に、ある方向へ向かって流れ出す。

 珍しいことだな、と思った。どこか近くに重力圏があるらしい。
なんとなく気になって、ユーロパに「な、この辺に星なんてあった
っけ」と問うと、不機嫌な声で
「馬鹿じゃねえのか、お前だって知ってんだろ。この辺にはゴミし
かねえよ」と返ってきた。この辺りが「宇宙の墓場」と呼ばれてい
ることを知っていて「ゴミ」と言い切るユーロパの神経に飽きれも
したが。
 ゴミしかないところに、重力があるわけ……
 言いかけて、ふと、ある考えが浮かんで。…ぞっとした。

 窓から目を離し、重力レーダーへ注意を向ける。…あった。一つ
だけ、重力を発する物体が。右前方、2時の方向。
 重力を発生するってことは、それなりの大きさと質量を有してい
るってことだ。
 ものが集まって、引き合って。一つになって、重力を有するんだ。
「おい…カミーユ…」
 ユーロパの声。あいつには珍しい、狼狽が見える。
 僕は既に、あいつが何を見ているのか知っている。

 それは、一ヶ所に集まり、重力を持つほどに大きくなった柩たち。
柩だらけのこの墓場で、偶然の万有引力が彼らを集め、纏め上げて
星にした。

 …いや、寂しかったのかな。一人きりで、宇宙を漂っているのが。

 僕らの宇宙船は、もう柩の星の重力に捕まっていて、逃げられな
くなってしまっていた。
 僕は、そんなことにかまわず、ただ黙祷を捧げていた。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。