第16回1000字小説バトル
Entry29
牛バラ肉 300グラム 玉ねぎ 中2個 にんじん 1本 じゃがいも 大2個 私はもう一度メモ用紙を見た。他に必要な材料は冷蔵庫の片隅で 眠っているはずだ。 「牛バラ300グラムなんてないわよ!」 貴子はメモ用紙を覗き込み、耳元で甲高い声を張り上げる。 「これは294グラムだし、これなんか302グラムよ!融通が利 かない店ね」 融通が利かないのはあなたよ! 貴子の父は一代で莫大な富を築いた企業家であり、貴子は一人娘 ということで重宝されていたが、一月前に日本有数の大企業の社長 息子とお見合い結婚したのである。 企業提携に貴子が利用された、との噂もあるが・・・・。 <一時間前> 「お母様が私の作ったカレーを食べたいって。コックがいるのに・・ ・・。嫁いびりだわ!」 玄関のドアを開けた途端、貴子の声がこだまする。外ではベンツと 運転手が待っていた。 私と貴子が出会ったのは高校一年のとき。 偶然にも同じクラスで隣の席だった。それからの腐れ縁である。 でもなぜ彼女は公立の高校にいたのだろうか? 買い物を終え、アパートに着く。これからが大変なのだ。 「何か手伝うことないかしら?」 「大丈夫。あなたの役目はちゃんとあるわ。それまでテレビでも見て て」 包丁、まな板、トントントン。 お鍋に火をかけコトコトコト。 高校卒業後貴子は有名女子大、私はちっぽけな短大にそれぞれ進ん だ。そして貴子は結婚、私はフリーター稼業の現在である。 <一時間後> 「貴子!できたわよ!」 メロドラマに没頭していた貴子は、待ってましたと言わんばかりに 飛んで来た。 「おいしい!」 味見係の役目をその一言で終えた。 ほっとしたのも束の間、私は肝心なことを忘れていた。 「ご飯は炊いてあるの?」カレーにご飯がなければ話にならない。 「大丈夫。毎日プール一杯分ぐらい炊かせているから」 その晩、彩り豊かな薔薇の花束が届けられた。 メッセージカードには、 『今日はありがとう。お母様も喜んでくれたわ。きっといいお嫁さん になれるわよ』 最低限、あなたよりはね。 <数日後> チャイムが何度も鳴っている。 隣で男はすやすや眠っている。鈍感だ。 ベットから出で急いで玄関の鍵を開ける。検討は付いている。 「お母様が早く孫の顔が見たいって。どうしよう!」 いつもの甲高い声が二日酔いの頭に響く。 私は枕元にあった一冊の本を思い出した。 タイトルは『快適性生活!秘儀四十七手!』コンドームの栞を添え て。
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