インディーズバトルマガジン QBOOKS

第16回1000字小説バトル
Entry30

作者 : 天野幾
Website : http://members.tripod.co.jp/iku19/
文字数 : 566
 男が銃を向けていた。女は無表情だった。
 女も銃を向けていた。男は無表情だった。
 互いに譲らないと、知っていた。
「……なぁ」
 先に口を開いたのは、男だった。向き合った相手に、問い掛ける。
「……どうする?」
 女は、淡々と答えた。
「どっちかが死ぬか、どっちも死ぬかしかないんじゃない?」
「くだらねぇな」
「同感」
 互いに視線をひたとすえたまま、二人は会話を続ける。
「どうせ、雇い主が変われば、敵じゃなくなる」
「わからないよ。また敵同士かもしれないし」
「少なくとも、今は殺し合う仲……か」
「……今はね」
 闇の中、伸ばされた腕と腕。銃口は、どちらも額に照準を合わせ
ている。
「もうちっと、ましな恋愛ができないもんかね」
「言ってるだけ、馬鹿みたい」
 くすりと、女が笑う。花びらのような唇に、笑みを宿したまま、
問い掛ける。
「愛してくれてた?」
「過去形じゃなく」
 男の表情も、僅かに緩む。目元に、殺意でないものがある。
「今から……生き方を変える事って、できると思う?」
「わかりきった事を、訊くな」
「そうだね。ごめん」
 女が微かに、首を傾ける。確かめるように、相手を見つめる。
「それでもちょっとは、くだらなくない人生だった、かな」
「ああ。そうだな」
 二人は、口を閉じる。もう、言うべき言葉は残っていなかった。
 時は、待たない。
 重なる銃声が、闇に響いた。






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