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第16回1000字小説バトル
Entry32

ビデオリサーチ

作者 : 鮭二
Website : http://members.aol.com/Shakeji/papyrus.htm
文字数 : 1000
 「世界人類が緩やかな不自由でありますように」と唱えて老人が
部屋を出ると、夕子はテレビをつけた。緩やかに縛られているから
テレビには手が届く。食事はきちんと老人が運んでくれる。しかし、
部屋から出ることは許されない。そこまでは皮紐が届かないのだ。
 片桐は狭いダクトに身を横たえ、吹き出し口の格子に目を押し付
けていた。24時間寸分漏らさず調査しなくてはならない。会社か
ら支給されたのは眠気覚ましの仁丹だけだった。入社半年、その業
界ではダクト3年で漸く一人前と見なされる。
 夕子はむしろ進んで緩やかな不自由を受け入れた。チャンネルを
替えることも許されていたが、挑むような目つきで「ベン・ハー」
をビデオデッキに挿入した。老人が隣室で満足げな笑みを浮かべる。
やさしいおじいさん。夕子は緩やかな不自由がやがて自らの肉体に
引き起こすであろう熱い波の揺蕩に思いを馳せた。ぎゅっと、皮紐
で制服の内側を擦ってみたりもする。
 この分なら暫くビデオに違いない。さて、一休み。と僅かな寝返
りを打った瞬間、熱い吐息を耳にする。テレビからベッドに目を転
じると、制服姿の女子が緩やかに縛られている。調査対象者の個人
データについては一切関知せず、という大原則にも拘わらず、その
姿態に視線を這わせたのは、緩やかな不自由を共有する者のシンパ
シーか。それを確かめるべく、彼は不自由な体勢でチャックを下ろ
し、速やかにアンテナを立てた。
 緩やかな不自由を甘受した夕子は更なる不自由を求めた。たるん
だ皮紐を自らの肉体に巻き付けていると、老人の鉛筆を走らせる音
が薄い壁越しに聞えた。やさしい指遣いが彼女の宿題、淫水分解の
答えを導き出す。こりこりこり。夕子は歯を食いしばった。
 片桐もまた更なる不自由を求め、アンテナの先端で仁丹を銜えて
みる。何だかすっとする。すっとするのに熱を帯びていく。吹き出
し口の下からも、熱が伝わってくる。同じ周波数で共鳴しているの
をアンテナは敏感に捉えた。
 やがて熱い液体が垂れてくる。十分な粘り気によって吹き出し口
と夕子の頬が一本の線で結ばれた。
「さあ、早く」と天井裏の男は言った。「その糸を伝ってこちらへ」
 夕子は気怠く首を振り、巻き付けていた皮紐を元に戻した。そし
て、「ベン・ハー」をデッキから取り出し、「アラビアのロレンス」
を挿入する。片桐は糸が切れるのを確かめてからチャックを上げ、
調査表に大きく「V」と書き込んだ。






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