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第16回1000字小説バトル
Entry33

ひあそび

作者 : 一之江
Website : http://www05.u-page.so-net.ne.jp/qd5/s-kumiko/
文字数 : 1000
 ドアを開けると、彼が微笑んで立っていた。
「さあ、やるよ」
 あたしは頷くと、彼の後をついて近くの川原へ下りた。ショート
パンツからむき出した足に夜露が触れてちょっと冷たい。夜はしっ
とりと川面にも降りて、きれぎれの月あかりをそこに落としていた。
「今日はどれがいいかな」
 彼は大きな帆布製のバッグを下に降ろすと手を突っ込んだ。
「パラシュートの、ある?」
「ああ、きっとあるよ。ちょっと待って」
 親指ぐらいの太さの棒をしばらく眺めてから、彼はあたしにそれ
を渡した。
「これ、一本だけだ。やる?」
「うん」
 あたしたちは草のはえてない地面を探すと、そこに小さな窪みを
作って棒をさした。彼がライターに火をつける。油の匂い。と、そ
の明かりに照らされてわずかに浮かぶ彼の表情。あたしはじっと見
る。でもすぐに火は棒の先に運ばれる。点火。
 しゅっと音がして細い光の束が飛び出す。あたしは手を叩いてそ
れを見る。それを見て彼は笑っている。たぶん。
 闇が再び戻った一瞬後に、ぽんっと小さな白いものが宙に投げ出
された。ふわっと夜空に舞ってゆっくりと降りてくる。つかまえよ
うと手を伸ばしたのに、それは彼の頭に落ちた。あたしが「あ」と
声をあげると、彼は中腰になってこっちに頭を差し出した。かわい
い落下傘を手にとると、あたしはそれをショートパンツのポケット
に突っ込んだ。
「次はどうする?」
 帆布製のバッグの口を広げる彼の手元をあたしは見つめる。
「線香にしようかな」
「あれ、そうなの?」
 訝しげに彼はあたしを振り向く。
「あれはいつも、最後にやってるのに」
「そうだけど」
 暗がりの中で、あたしはバッグの中身を懸命に目で計る。どっち
にしろ、もうあまり残ってないに違いない。
「線香は、まだ割とあるのかなと思って」
「うーん、まあそうだけど」
 言いながら、彼は細い紐をあたしに差し出した。
 あたしたちは紐を手に、向かい合ってしゃがみ込む。彼がライタ
ーで自分のに火をつける。オレンジ色の小さな灯。あたしはそれを
貰いに自分の先っちょを近づける。
「今度はいつかな」となんとなく訊いてみる。
「月のきれいな風のない夜」と彼は台詞を棒読みするように言う。
「いないかもよ」
 あたしは、意地悪を言った。
「うん、いいんだ」
「そう」
 でもたぶん、きっといる。たぶん。
 闇をはじく小さな光のひび割れを、あたしたちはじっと見つめた。
しゃがんだ膝がちょっとだけ、ぐらっと揺れた。






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